多くのネット犯罪はなんらかのフェイクの上に成り立っている。フェイクってのは、言ってみれば騙しだ。どんなに技術をこらしたサイトを作っても、見た瞬間に、うさん臭く思われたら終わりだし、サイトに誘導する方法も信頼されるものでなきゃいけない。
オレがそう言うと、川崎はかすかな笑みを浮かべた。なんだ、そのバカにしたような笑いは? 発注者だからって、態度でかいんじゃないの?
そんなわけで、オレは一発で機嫌を直してエリカに行くことになった。エリカはここ数週間、国際展開するコンシューマ向けネットワークゲームプラットホームから、立て続けに個人情報を流出させてマスコミに叩かれまくっている。
未だにオレを「ちゃん」づけで呼ぶ生きた化石はこいつしかいない。大手広告代理店の営業マンにして、オレのエージェントである沢田だ。頭の中は、いつもアロハな無責任男。
「エリカに充分な鉄槌をくだした。これでいったん潜伏する。エリカに再び鉄槌をくだす時がくれば、また降臨するであろう。さらば同志よ、航海は終わりだ」
1週間後、エリカのゲーム子会社の顧客データを公開した。笑っちゃうほど、簡単な仕事だ。どうやって盗んだかなんて説明するのもバカらしい。
笑いがこみ上げてきた。そしてひとしきり笑うと怖くなった。もしかしたら、つかまるんじゃないかという気がした。まあ、こんなことやって、怖がるのも変だけど、やっぱり怖い。
私はマギーと名乗ることにした。匿名でメールアドレスとTwitterのアカウントも取得した。Twitterから犯行声明を出してやる。たった今から個人情報を盗むことを「マギる」とみんなが呼ぶことになる。
そして数日後、私は総合エンタテイメント企業エリカの顧客データベースへの侵入に、まんまと成功した。バカなエリカの連中に一泡吹かせてやる。私は、日本最初のハクティビストだ。
※本稿はフィクションです。実在の団体・人物・事件とは関係がありません※
2010年6月から半年にわたって掲載されたサイバーセキュリティミステリー「 工藤伸治のセキュリティ事件簿:R式サイバーシステム社編 」のPDF書籍ですが、 前回のキャラクター原案 に基づいた表紙案が、瀬尾浩史先生から届きました。
2010年6月から半年にわたって掲載されたサイバーセキュリティミステリー「 工藤伸治のセキュリティ事件簿:R式サイバーシステム社編 」のPDF書籍化にあたって、解説文を岩井博樹氏にご寄稿いただけることになりました。
2010年6月から半年にわたって掲載されたサイバーセキュリティミステリー「 工藤伸治のセキュリティ事件簿:R式サイバーシステム社編 」のPDF書籍化にあたって、表紙イラストを依頼した漫画家の瀬尾浩史先生から、 前回ご紹介した設定資料 に基づいて、ラフ案が届きました
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