ガキの写真は決して好きじゃないし、職場にそんなものを飾るヤツの気が知れないが、萌えプリンを食いながらおっぱいマウスパッドで萌え絵の壁紙のPCを操作しているヤツよりは、はるかにましだ。
「しかしアクセスログがない以上、検証しようがありません。論理的に考えてもっとも妥当な結論をまとめてください」
人間には2種類ある。そいつが楽しそうにしていると周りも楽しくなるヤツと、逆に周りを不快にするヤツだ。
オレは、あらためてなにが気になるのか考えてみた。だが、なにも見つからない。こうなると、単にカンでしかない。ほんの少しだけ不自然に感じたのは、誤データはどれも住所と電話番号が間違っていることだ。妙に符合している。
日本は、サイバー犯罪先進国だな、とオレは苦笑いした。ガキの頃からこんな方法で楽に金を稼いでたら、将来は決まったようなもんだ。
たいていの仮想通貨には換金ルートが存在する。直接現金にかえられなくても、数回他の通貨に替えることでなんとかなることが多い。利用者が増えれば、現金に換える方法が必ず生まれる。そして現金に換える方法が生まれれば、組織犯罪が生まれる。
ダメピッグとはもちろん架空のサービスだ。当然モデルがあり、どことは言わないが、アバターを使ったサービスが大変人気で、あんなことやこんなことが行われているらしい。特に未成年の利用者による不正アクセス事件が多発している。
どうでもいいようなことに思えるだろうが、意外とこういう知識は大事だ。なぜなら、ハッカーとかクラッカーは、アニメやフィギュアが大好きなのだ。そしてそのキャラクターの絵柄をアイコンなどで使ったりするだけでなく、メッセージに残したりもする。
「なんかさ、ものすごい歪んだ説明してないかな? それ絶対違ってると思うんだけど」
とはいえ、ぽっちゃり系眼鏡ちゃんの沢近はビジュアル的には、オレのど真ん中だ。太腿もむっちりしているし、言うことない。え? 女にそれしか求めないのか? もちろん、そんなことはない。
システム部長やってるやつは自虐的な野郎が多いんで、適度に怒らせとくのがちょうどいい。しかし、怒らせすぎはだめだ。このへんの加減がわからなきゃ、この仕事を続けられない。
キャンペーンというのは曲者だ。まず担当部署がシステム部じゃなくて宣伝部や営業部のことが多い。この時点で、セキュリティ意識が著しくダウンする。
私立? オレは一瞬どういう反応をすべきか迷った。オレの皮肉に対する切り返しのはずなのだが、どういう意図で言ったのか全く検討がつかなかった。なので、オレは黙って肩をすくめるだけにした。
社内のネットワークのチェックというのは口でいうほど簡単じゃない。接続されている全ての機器を走査して、それがなにかを特定し、場合によっては視認する。面倒なことこの上ない。
「いいか、社内、社外のネットワークを完全に走査する。どんなに厳重に管理しているとこだって、誰からも忘れられた管理されていないなにかがあるものなんだ。サーバ、ルータ、クライアント、ゲートウェイ。なにかがある」
「それだけやって情報漏れてちゃしょうがないんだけどさ」オレが言うと、川崎の顔が歪んだ。いけねえ、またひとこと多かった。どうもオレは、つい本音をもらしてしまう。悪い癖だ。
多くのネット犯罪はなんらかのフェイクの上に成り立っている。フェイクってのは、言ってみれば騙しだ。どんなに技術をこらしたサイトを作っても、見た瞬間に、うさん臭く思われたら終わりだし、サイトに誘導する方法も信頼されるものでなきゃいけない。
オレがそう言うと、川崎はかすかな笑みを浮かべた。なんだ、そのバカにしたような笑いは? 発注者だからって、態度でかいんじゃないの?
そんなわけで、オレは一発で機嫌を直してエリカに行くことになった。エリカはここ数週間、国際展開するコンシューマ向けネットワークゲームプラットホームから、立て続けに個人情報を流出させてマスコミに叩かれまくっている。
未だにオレを「ちゃん」づけで呼ぶ生きた化石はこいつしかいない。大手広告代理店の営業マンにして、オレのエージェントである沢田だ。頭の中は、いつもアロハな無責任男。
「エリカに充分な鉄槌をくだした。これでいったん潜伏する。エリカに再び鉄槌をくだす時がくれば、また降臨するであろう。さらば同志よ、航海は終わりだ」