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2018.10.22(月)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン3 「エリカとマギー」 第6回「工藤ちゃん」

未だにオレを「ちゃん」づけで呼ぶ生きた化石はこいつしかいない。大手広告代理店の営業マンにして、オレのエージェントである沢田だ。頭の中は、いつもアロハな無責任男。

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第2部

その朝、オレはご機嫌斜めだった。なぜかというと、朝立ちしていたからだ。いや違う。悪いのは朝立ちじゃない。本来なら、オレの横にいるべき女がいないことだ。

女がいれば、せっかくの立っているもので、つんつんして、「ああん、なにバカなことしてんの」なんて、いちゃいちゃができるのだ。それなのに、いない。ひとりだと、単にトイレが不便なだけでなにもいいことがない。そこにもってきて、あの野郎からの電話だ。

「工藤ちゃん!」

とうの昔に日本のブーミング・デイズは過ぎ、バブルは崩壊して過去の遺産だ。未だにオレを「ちゃん」づけで呼ぶ生きた化石はこいつしかいない。大手広告代理店の営業マンにして、オレのエージェントである沢田だ。頭の中は、いつもアロハな無責任男。

こいつのクライアントには、間抜けなシステムを開発したり、運用したり、クラッキングされたり、個人情報盗まれたり、Web改ざんされたりしている企業が山ほどある。

でもって、なにをどう考えるんだか理解に苦しむんだが、この間抜けなクライアントは、広告代理店に相談するわけだ。すると広告代理店は無責任と適当が事業の本質なので、ろくに考えもせずに「おまかせください。大丈夫です」と口からでまかせを言って、できもしない案件を引き受ける。正しい日本語で言うなら、「安請け合い」というヤツだ。あるいはカラ手形ともいう。

もちろん沢田の会社はシステムのことなんか知らないから、オレに相談が来る。つまり、オレは、サイバーセキュリティコンサルタントだ。

最先端の仕事のように聞こえるけど、実際にやっているのは、企業などの、表沙汰にできないトラブルを処理する泥臭い地味な仕事だ。どぶさらいに近いと思う。

しかし、脳みそが腐ってるとしか思えない沢田も最近は、オレのことを「さん」づけて呼んでいたはずだ。なんの因果で先祖返りしたんだろう。先祖の墓でも暴いたんだろうか?

「工藤さん、だろ。さんづけで呼んでくれよ」

「あーあー、すいません。いい話なもんで、ついつい昔のくせで、ちゃんづけしてしまいました。工藤先生!」

この調子のよさといい加減さが沢田というか、広告代理店の持ち味だ。

「エリカさんからご相談が来たんですよ。絶対内緒ですよ!」

《一田和樹》

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