「今回のオレの仕事は、ここまででいいんだよな。あとでレポートと請求書を送る。このクラスタ野郎をどうするかは、あんたたちで勝手に決めてくれ」
正解だ。額から汗がぽたぽたたれてきた。私は家に帰りたくなった。こんな風に責められるのは好きじゃない。やり直したい。
「し、しかし壊れたPCの持ち主の子供をそんなに都合よく見つけられるものですか?」川崎が思いきり間抜けなことを訊いた。
「あんたは頭がいい。オレが最後に悩んだのは、そこだ。」
やられた、と思った。メールまで確認されていたのか。バカが、なぜ消しておかない。
「あんたが犯人。マギー様に違いない」工藤が自信たっぷりに私を指さした。
今日は川崎が社内を見て回っていた。見たことのない男が一緒だ。見学と言っていたが、おそらくあいつが工藤に違いない。私は、トイレに立つフリをして、工藤の野郎の顔をじっくりと観察した。下品でくずい顔だ。こんなバカなヤツに私の仕掛けたトリックがわかるわけがない。
川崎の返事を聞いて、オレはため息をついた。こんなヤツが部長をやっているのを見たら、世間をなめるようにもなるだろう。
発生した事象を全体を時系列に並べて書いていた時、頭の霧が晴れた。オレは完全に勘違いしていた。犯人がデータの公表を遅らせた理由がわかった。あやうくはめられるところだった。
ガキの写真は決して好きじゃないし、職場にそんなものを飾るヤツの気が知れないが、萌えプリンを食いながらおっぱいマウスパッドで萌え絵の壁紙のPCを操作しているヤツよりは、はるかにましだ。
「しかしアクセスログがない以上、検証しようがありません。論理的に考えてもっとも妥当な結論をまとめてください」
人間には2種類ある。そいつが楽しそうにしていると周りも楽しくなるヤツと、逆に周りを不快にするヤツだ。
オレは、あらためてなにが気になるのか考えてみた。だが、なにも見つからない。こうなると、単にカンでしかない。ほんの少しだけ不自然に感じたのは、誤データはどれも住所と電話番号が間違っていることだ。妙に符合している。
日本は、サイバー犯罪先進国だな、とオレは苦笑いした。ガキの頃からこんな方法で楽に金を稼いでたら、将来は決まったようなもんだ。
たいていの仮想通貨には換金ルートが存在する。直接現金にかえられなくても、数回他の通貨に替えることでなんとかなることが多い。利用者が増えれば、現金に換える方法が必ず生まれる。そして現金に換える方法が生まれれば、組織犯罪が生まれる。
ダメピッグとはもちろん架空のサービスだ。当然モデルがあり、どことは言わないが、アバターを使ったサービスが大変人気で、あんなことやこんなことが行われているらしい。特に未成年の利用者による不正アクセス事件が多発している。
どうでもいいようなことに思えるだろうが、意外とこういう知識は大事だ。なぜなら、ハッカーとかクラッカーは、アニメやフィギュアが大好きなのだ。そしてそのキャラクターの絵柄をアイコンなどで使ったりするだけでなく、メッセージに残したりもする。
「なんかさ、ものすごい歪んだ説明してないかな? それ絶対違ってると思うんだけど」
とはいえ、ぽっちゃり系眼鏡ちゃんの沢近はビジュアル的には、オレのど真ん中だ。太腿もむっちりしているし、言うことない。え? 女にそれしか求めないのか? もちろん、そんなことはない。
システム部長やってるやつは自虐的な野郎が多いんで、適度に怒らせとくのがちょうどいい。しかし、怒らせすぎはだめだ。このへんの加減がわからなきゃ、この仕事を続けられない。
キャンペーンというのは曲者だ。まず担当部署がシステム部じゃなくて宣伝部や営業部のことが多い。この時点で、セキュリティ意識が著しくダウンする。