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裁判官が法廷でベイズ統計の使用を制限~テリー・プラチェット効果に判事が立腹(The Register)

裁判官が法廷でベイズ統計の使用を制限 ?テリー・プラチェット効果に判事が立腹

国際 TheRegister
裁判官が法廷でベイズ統計の使用を制限
~テリー・プラチェット効果に判事が立腹

By Tim Worstall
Posted in Law, 5th October 2011 09:00 GMT

分析 英国の(悲しいことに名称のない)ある事件の裁判官が、ベイズの定理(犯人特定の確率を予測するため、裁判所で使用される手法)は、刑事裁判では使用されるべきではないと判決を下した。

少なくとも、近年見られるような依存をするべきではないという。同裁判官によれば、被告が有罪である可能性について陪審に説明するため、鑑定人がデータを同定理に当てはめるなら、それ以前に、基本となっている統計は概算推定ではなく、「確固たる」ものであるべきだからだ。この考えにより、DNAは別として、薬物の痕跡、衣類の繊維、足跡などが容疑者と適合する確率などにも影響が出る可能性がある。

上訴中のある殺人事件で、犯罪現場に残された足跡にその靴がほぼ適合したことを理由に、ある人物に有罪判決が下されたのだが、以下の論点が指摘された:

この種の推測を行うのに必要なデータは、しかし、常に利用できるわけではない。そしてこの事件の専門家が攻撃されたのは、この点だ。裁判官は、この国に特定のタイプのNike Trainerが何足あるか、正確に言う事はできないと指摘した。国内のスポーツシューズの売上高は、概算推定に過ぎないのだ。

数学的な傾向の強いRegisterの読者諸賢なら、単なるジャーナリストにすぎない私よりもずっと、詳細に納得がいくことだろう。しかし法律的な見地から言えば、これは妥当な裁定と思われる。

確かにベイズの定理は、推測を行う際に非常に有効に使用でき、どういうことが起きた可能性があるかについて、有用な手がかりを与えてくれる。しかしこの定理が、誰かを拘留するのに必要とされる「合理的疑いの余地が無い」状態に導く情報を与えてくれるかというと、そうではない。

それだけでなく、統計が示される方法は紛らわしいどころではない。まず第一に、陪審は必ずしも高度な統計的推論に長けていない一般集団から成り立っており、専門家から、百万分の1の確率だと言われることで、ありがちな誤解に導かれる。

百万人に1人の精度というDNA照合は、被告が殺人を犯していない確率が百万分の1だという意味ではない。むしろそれは、純粋にDNAにもとづいても、6,500万の人口中65人が犯行を犯した可能性があるという意味なのだ。我らがDNA鑑定はしたがって、百万に1人という確率から合理的疑いの余地無しとして被告席の人物を有罪とするのではなく、我々が他の65人を除外するか、少なくとも彼らを、重要な容疑者候補の一団と考えるべきであることを意味している。そう、この種の間違いは、推論をくり返すことで起きるのだ。

もちろん、もっと悪いケースもある。今も論争が続いているので名前は出さないが、乳児突然死で子どもが亡くなる可能性は7万9,000人に1人(説明のための架空の数値)。そして1つの家族の2人の子どもが乳児突然死で亡くなるのは、7万9,000×7万9,000で62億4,100万分の1の確率だ。60億分の1です、陪審員の皆さん。どうすべきかお分かりですね。母親を拘留すべきです。

これが実際に、一人の著名な証人によって使用されたロジックだった。数年後、乳児突然死は独立事象では無いのかもしれず、遺伝学的素因が存在する可能性や、1度乳児突然死が起きると、次の乳児突然死の可能性を高める環境的問題がある可能性が指摘され、ようやく上告が認められた。乳児突然死が1度起きれば、2度目の可能性はたった1,000分の1かもしれない。あるいは、2,000(これも架空の数字だ)分の1かもしれないが、これは「合理的疑いの余地無し」とする根拠として、あまり利用したいとは思わない数値だろう。

私であれ、裁判官であれ、誰であれ、訴訟事件で証拠を検討する際、ベイズ的推論の有用性を疑う者はいない。しかしこの手法は近年、専門家にさえ良く理解されていないので、その意味するところすべてを再考し、論じなおすことは、悪い考えとは言えない。(原文

© The Register.


(翻訳:中野恵美子
略歴:翻訳者・ライター
《ScanNetSecurity》

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