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2017.10.24(火)

あなたは8年前なにをしていましたか、インターネット自由制限の種子が蒔かれた年

特集 コラム

最近、インターネットの自由の危機や、ネットを通じて人権が脅かされる危険を訴える声をよく聴くようになりました。だいたい8年前にこうした危険な動きは顕在化してきました。

・2003年8月 住民基本台帳ネットワークシステム本格稼動
・2004年1月 住民基本台帳ネットワークシステム、公的個人認証サービス開始
・2004年2月 不正アクセス禁止法 施行
・2004年2月 ACCS不正アクセス事件
・2004年2月 共謀罪、国会に法案提出
・2004年4月 サイバー犯罪条約批准
・2004年5月 Winny開発者逮捕事件
・2004年8月 警察庁、情報セキュリティ政策大系を見直し、新体系を発表
・2004年9月 インターネットガバナンス・タスクフォース・ジャパン(IGTF-J)発足
・2005年4月 個人情報保護法 全面施行

ここにあげたほとんどが2004年に起きています。2000年から2005年にかけて日本のインターネットを取り巻く環境は、管理強化の方向に大きく舵をきったことがわかると思います。

その背景には、ネット犯罪、特に組織的な犯罪集団の動きがありました。金銭目的あるいは政治的、思想的な目的を達成するための組織的な活動が増加したのです。こうした動きを抑止するとともに、発生した際には取り締まれるような態勢を構築しなければなりません。国際化し、参加者も増え、手口も巧妙になるネット犯罪に対抗するには、従来とは異なる枠組みが必要だったのです。

とはいえ規制、監視と自由のバランスをとるのがとても難しいといえます。当然、監視と規制が厳しくなることの問題点を指摘する人もいました。

2004年頃の変化は、日本国民の情報を住基ネットにより効率的に管理できるようにし、不正アクセス禁止法をはじめとする法律でネット上の取り締まりを強化し、サイバー犯罪条約により国際的なネット犯罪への対処を容易にするための布石です。大きな問題点として、犯罪などの行為定義があいまいであるために過剰に「柔軟な」運用が可能になっており、恣意的に犯罪者を作り出すことやそのための個人情報収集も不可能ではない点があります。これは視点を変えると、ネット上の言論の抑圧や人権侵害に悪用される危険があるということです。

2004年2月のACCS不正アクセス事件、2004年5月のWinny開発者逮捕事件は、それを予感させる事件でした。

●8年前からの準備が具現化、ネットの自由への危機感が高まる

2012年、8年前に準備がされていたものが姿を現し始めました。著作権法強化=違法ダウンロード刑罰化、マイナンバー法案閣議決定(国民総背番号制)、ACTA、不正アクセス禁止法改正、サイバー刑法施行、サイバーテロ対策強化などにより、国民の生活の監視、管理は強化されました。もちろんサイバー犯罪やサイバーテロに対応しての強化と呼ぶこともできます。しかし大きな懸念が残っていることも確かです。インターネットの自由や人権の危機と言うこともできます。

これを食い止めるために、アノニマスが抗議行動を起こしたり、サイバーセキュリティ関係者や法曹関係者が危険性を指摘したり、いわゆる文化人の方々も懸念を表明しています。

私も危惧を感じる者のひとりですが、こうしたことは目の前に危険が迫ってきてから対処するのは大変です。急ブレーキを踏むようなものなので、危ないです。急ブレーキを踏むと、過激な抗議行動を起こしたり、すでに準備できている他の法律や制度との齟齬から新しい問題が発生したりします。

急ブレーキというのは、関連する団体や省庁のサーバにDDos攻撃を仕掛けるなど過激な行動を指します。

目の前に危険が迫っているのだから急ブレーキは仕方がない。それはそうかもしれません。しかし急ブレーキは危険であり、周囲に迷惑をかけ、なおかつ成功するかどうかわかりません。望ましい方法ではないことは、おそらく急ブレーキを踏んでいる人もわかっていると思います。あくまでもやむを得ない緊急措置なのです。

●急ブレーキではない安全な回避方法 重要なのは予見すること、考えること

急ブレーキを踏まずに回避する方法はあります。事前に予見し、時間をかけて止めさせればいいのです。

法律や制度、条約を成立させるのはそれなりに準備が必要です。その段階で止める。止めてくれる政治家を選ぶ、危惧を表明するメディアを支える、折に触れて意思表示する、裁判になった時に止める判決を出さなそうな最高裁判所裁判官を罷免する、そういった活動を行えばいいわけです。

2012年に起きていること、これから起きようとしていることは、2004年の段階で行動を起こしていれば、なくなっていたかもしれないというのを忘れてはなりません。

この事態を招いた原因は、私たち自身の中にもあったことを忘れてはならないのです。

時間のかかることなので、目前にせまってからでは間に合わないでしょう。つまり、今、5年後、10年後のことを考えて行動しなければ、また成功するかどうかわからない急ブレーキを踏むことになるわけです。

だからあえて今お尋ねするのです。

今、インターネットの自由の危機を叫んでいるあなたは8年前なにをしていましたか?

これから5年後、10年後のことを考えていますか?

8年前に無関心だったり、トンデモ陰謀説と聞き流していて、今になって危惧を持つようになった人もいるかもしれません。それはそれでいいと思います。「今まで無関心だったあんたに、今さらインターネットの自由を言う資格はない」などというつもりは毛頭ありません。言うべきはないと思っています。

忘れてならないことのは、予見すること。これからなにが起きようとしているのか、なにをすべきなのかを考えることだと思います。

急ブレーキを踏むだけでは、またいつか急ブレーキを踏まなくてはならなくなります。急ブレーキの連続なんて世の中は楽しくないと思います。それに最悪なのは、急ブレーキを踏んでも回避できるとは限らないことです。

●サイバー犯罪条約批准の時、どんな動きがあったのか?

温故知新というわけではないですが、8年前にどんな人がどんな風に危惧を表明していたかを調べてみました。

ポリシーロンダリングとも言われるサイバー国際条約についてまずは調べてみました。これを批准したことが根拠となって国内法の強化が図られたというとても重要なものです。

法曹関係者は明確に危惧を表明しました。日本弁護士連合会ではまず「サイバー犯罪に関する条約の批准に関する意見書」を2004年4月17日に公表しました。

サイバー犯罪に関する条約の批准に関する意見書(日本弁護士連合会)

続いて同団体の国際刑事立法対策委員会は、「サイバー犯罪条約とその国内法化に関するQ&A」を5月14日に公表しました。わかりやすく問題点を解説しています。

国際刑事立法対策委員会 サイバー犯罪条約とその国内法化に関するQ&A(日本弁護士連合会)

日本弁護士連合会は、これ以外にもウイルス作成罪などをはじめとする法律に人権や言論の自由といった観点から常に懸念を表してきました。

また、日本弁護士連合会の国際刑事立法対策委員会の委員長の山下幸夫氏は、ネットと人権、自由の問題について自身のWEBや一般媒体への寄稿で訴え続けてきました。

2005年には「言論統制に利用されるインターネットセキュリティ法制度」という論考を Scan Security Management誌に寄稿し、強い懸念を表しました。指宿信氏(成城大学教授)もいちはやく「サイバー犯罪条約批准および関連法規の改正とネット事業への影響」と題する連載記事を Scan Security Management誌に寄稿しています。個別にあげれば枚挙にいとまがありません。

言論統制に利用されるインターネットセキュリティ法制度(1)
言論統制に利用されるインターネットセキュリティ法制度(2)

サイバーセキュリティ関係者の中にも懸念を抱く人々はいました。個別にお名前をあげるのは控えますが、イベントで発表したり、媒体に寄稿したりして危惧を表明しました。

しかしこうした活動は、大きく世論を動かすうねりにはなりませんでした。理由は簡単で、あまり関心を持たれなかったからです。世の中には、もっと他の目の前に迫った脅威や締切があり、先のことを考えて行動を起こす人間はまれだったのです。

●終わりに

8年前から進んでいたものがひとつの区切りを迎える時になりました。目の前に迫った問題になったわけです。法律の改正や条約の発効により、インターネットの自由と人権が侵される危機を切羽詰まったものとして感じることができるようになりました。

危機が身近になったおかげで、反対の動きも活発になりました。急ブレーキを踏んでいます。成功するかもしれません。失敗するかもしれません。仮に成功しても、ここまで準備してきたさまざまなことは無駄になります。それは仕方がないことかもしれませんが、仮に8年前に止めていれば無駄なく安全に止まったでしょう。

血気盛んな若い人は、過激な行動に走りたがるでしょう。選挙権のない若者には意思表示の方法は限られていますから、無理もないと言えなくもありません。

しかし、選挙権を持ち、社会活動を営んでいる人には考えていただきたいのです。みなさんは、若者と一緒になって眼前に迫った危機だけを考えているわけにはいかないのです。みなさんが、これからのことを予見して行動しなければ誰がするのでしょう?

実際、共謀罪は国会に法案が提出された時点で、多くの人々が反対の声を上げたおかげで成立しませんでした。共謀罪の法案は二度国会に提出されましたが、二度とも通りませんでした。

気になることが動き出した段階で止めることは可能なのです。サイバー犯罪条約関連法規整備と正式加盟も早い時点で止めることができたのかもしれません。

2007年10月16日に発足した一般社団法人インターネットユーザー協会(発足時は「インターネット先進ユーザーの会」という任意団体、その後公益法人化し、名称を現在のものになりました)は、予見し、行動する団体と言っていいでしょう。ACTAの問題についてもいち早く声を上げてきました。

一般社団法人インターネットユーザー協会

今、インターネットの自由の危機を叫んでいるあなたは8年前なにをしていたか、そして、これから5年後、10年後のことを考えみてください。やれることはいくらでもあります。

(一田和樹)

筆者略歴:作家、カナダ バンクーバー在住、代表作「サイバーテロ 漂流少女」
《ScanNetSecurity》

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