対抗手段はないわけではない。まず人数の差はいかんともしがたいので、最初に犯罪者たちに対抗できる人数をどのようにして組織化し機能させるかという問題を解決しなければならない。だが、下手すると数十万人の犯罪集団である。いったいどのように対抗すればよいのだろうか。答えは簡単である。同じように、ネット上で正義の組織をネットワークすればよいのである。いわば、ネットの自警団だ。いや、自警団でなく、ちゃんとした公的な後ろ盾をつけてもいい(大変だし、面倒そうなので現実には難しいと思うが)。犯罪組織と同様に国家の枠を越えて、仲間を集め、連絡網を作り、資金収集、移動させる正義の組織だ。すでに暴徒の画像を共有したり、クリーンナップ作戦の仲間集めをしたりという萌芽がある。ネットを用いて犯人捜しをしたり、社会的な制裁を加えることをe-punishment と呼ぶが、e-punishment ネットワーク組織こそが対抗しうる有力な候補となるだろう。自律的な個々人のつながりによってなり立つネットワーク組織。もちろん、犯罪が起きた際の犯人の摘発だけではなく、予防も行うことになる。というかもっとも威力を発揮するのは、予防であろう。いったん起きて暴徒が騒動を起こしてからでは遅い。暴徒の通信を傍受し、資金移動を妨害し、犯罪の芽を摘むパトロール活動が行われるようになる。これは、ある意味、人権や自由とうまくバランスをとりながら進む綱渡りでもある。ともすれば昔の隣組制度になりかねない、相互監視社会の誕生だ。一歩間違えれば全体主義化にもつながりかねない。万が一、国境なきネットワークから冤罪で追われることになったら、もうどこにも行き場はなくなる。世界中の携帯電話が監視カメラになって追跡する。もしもカードや身分証明書を使うのならその記録があなたを追いかける手がかりとなる。え? そういう公的なものの情報はe-punishmentネットワークでは入手できないだろうって? e-punishment ネットワークが一般化した時には、人々はリアルな警察よりもe-punishment ネットワークを信頼し、大事にするようになる。そして自分が所属している組織の情報を平気で e-punishment ネットワークに提供するようになる。e-punishment ネットワーク参加者が増えれば増えるほど、世界中の個人の情報は筒抜けとなり、そうなれば参加しないわけにはいかなくなる。かくしてクラウド型犯罪ネットに対抗するe-punishmentネットワークは世界に輪を広げる。だが、これは日本人にとっては、険しい道でもある。公的な後ろ盾のない中で自分たちで判断し、選択し、行動しなければならないのだ。もしかしたら日本人が一番苦手なことかもしれない。だが、もはや世界は自律的に活動できる人間でなければ、生きにくい時代へと突入しているのである。(一田和樹)筆者略歴:作家、カナダ在住一田和樹著/原書房刊「檻の中の少女」http://www.amazon.co.jp/gp/product/456204697X/