特集 Anonymous 研究 第1回「Anonymous の社会的意味」 | ScanNetSecurity
2024.07.27(土)

特集 Anonymous 研究 第1回「Anonymous の社会的意味」

Anonymousを決定的に世に知らしめたのは、2008年、アメリカ発の新興宗教団体サイエントロジーに対する大規模なデモにある。

特集
Anonymous組織概要図
  • Anonymous組織概要図
  • Anonymousの主要な活動年表(2006~2011年)
  • Anonymousの主要な活動年表(2011~2012年)
3名の識者による、匿名ハクティビストグループAnonymous研究連載の第1回は、「『統治』を創造する」の編者として知られ、新書「ハクティビズムとは何か」を8月に出版した塚越健司氏による、Anonymousの社会的意義に関する寄稿をお届けします。

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英語で匿名を意味するAnonymous。彼らは個々に名前はなく、各自が不正であると感じた企業や政府に抗議する。その内容は合法的なデモからDDoS攻撃、不正侵入といった違法行為まで多種多様であるが、彼らを単に犯罪者として捉えることは正確ではない。それは彼らが社会運動の様相を見せることもあるからだ。

●Anonymousとは

Anonymousの起源は、日本の画像掲示板「ふたば☆ちゃんねる」のスクリプトを用いて2003年に誕生したアメリカの「4chan」という巨大画像掲示板にある。多様なユーザーから成り立つ4chanでは、2006年ころから一部のユーザーが政治的な目的のもと、企業や政府に対して抗議を繰り返すようになった。

Anonymousを決定的に世に知らしめたのは、2008年、アメリカ発の新興宗教団体サイエントロジーに対する大規模なデモにある。この時Anonymousは、ガイ・フォークスという17世紀に実在した体制への反逆者の仮面を被ることで、デモ参加者の匿名性を守るとともに、Anonymousという集団の象徴を創りあげた。この仮面とともにAnonymousを特徴づける要素に、情報の自由を守るという大義がある。

宗教や人種、政治意識も異なる人々をつなぎとめるために、Anonymousは「情報の自由を守る」という、抽象的かつ誰もが賛同しやすい大義を設定する。また、多様な意見を仮面に集約させることで、Anonymousという集団のアイデンティティを確立し、仮面を通して参加者の帰属意識とメディアへのアピールを可能にする。

●Anonymousの活動

Anonymousの活動の中でも代表的な例としては2010年、リークサイト「ウィキリークス」への寄付受付を中止したビザカードやマスターカードに対するDDoS攻撃がある。さらに2011年、Anonymousの内部事情について発表すると宣言したセキュリティ企業のHBGary Federalに侵入し、社内メールを公開した。

こうした違法行為の一方で、2011年に生じた一連の中東革命においては、検閲を逃れるツールの配布やその方法を伝えるなど、革命を支援する活動を展開し、ウォールストリートに端を発する世界的なオキュパイ運動においても、Anonymousは仮面を被りデモ活動を行っている。さらに同年11月にはメキシコの麻薬組織とも争った。

2012年6月には、日本で違法ダウンロードの刑事罰化を含んだ著作権法の改正が議会で可決されたことに対するDDoS攻撃や、合法的な抗議の一環として、渋谷で清掃活動などが行われている(清掃活動については以下を参照。

●組織概要

このようにAnonymousは、デモなどの合法的行為や、不正侵入などの違法行為が入り乱れて活動している。彼らがオペレーションと呼ぶ抗議活動に関しては、IRCチャットを用いて基本的に誰でも参加可能なオープンな環境で抗議内容を議論する。そこでは多様な意見の中から淘汰が行われ、最良の方法が採用される。ただし、合法・違法に関してはAnonymous内部でも意見が分かれており、大別すれば合法活動に限定して活動するチャノロジーと呼ばれる派閥と、違法行為も辞さないアノンオプスという派閥に分かれている。

●Anonymousの社会的意義

国家の法や政策に反対するため、あえて不法行為を行う「市民的不服従」という考えのもと、1998年にメキシコ大統領のサイトに「Electronic Disturbance Theater(電子妨害劇場)」という団体が、抗議の一環としてDDoS攻撃を仕掛けた。彼らはDDoS攻撃をネット上の座り込み行為と捉えており、DDoS攻撃は単なる犯罪行為ではないと述べている。同様にハーバード・ロースクール教授のヨハイ・ベンクラーは、すべてではないにせよ、AnonymousのDDoS攻撃は市民的不服従として一定の価値を認めるべきと主張する。

合法活動やDDoS攻撃などを含むAnonymousの活動は多種多様であり、その評価をめぐっては抗議ごとに是々非々で判断する必要がある、問題はネット上の盛り上がりに比例して活動が加速することである。Anonymousはリーダーの存在しないネット上の集合体である。それ故にコントロールが難しく、大規模な犯罪行為か、あるいは人々に支持される社会運動の両方に発展する可能性が指摘できる。したがって一概にAnonymousを肯定・否定することも難しい。

●結論

市民的不服従と同様にAnonymousの活動は、違法行為であっても市民から支持されるケースもある。グローバル化と国家の統治能力の低下により、人々は合法・違法という尺度ではなく、自分自身の関心にしたがって支持・不支持を表明する機会も増えた。

だとすれば、単に法的に違法だからといって強行手段に出てしまえば、市民から不評を買ってイメージを損ねる企業も現れるだろう。このように考えれば、Anonymousとはネット上の声がそのまま政治活動として現れているとも考えられる。もちろん、私はなんでもAnonymousの声を受け入れろと言いたいわけではないし、Anonymousの活動には非難されて当然と言える活動が多いのも事実だ。

しかし、Anonymous の活動をむやみに否定してしまえば、彼らの活動はより過激化する。また匿名であるが故に批判しやすく、彼らの脅威を煽ることで国家の軍事予算増加の名目になる可能性も指摘できる。彼らをやたらに批判するだけでなく、企業や政府としてどう対処する必要があるか。冷静に観察する必要があるだろう。

(塚越健司:一橋大学大学院社会学研究科)
《ScanNetSecurity》

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