悲惨のデパートみたいな話だった。途中で何度も、やめてくれと言いそうになった。なんでこいつはオレに身の上話をするんだ? 同情を買って仲間にするためか? さっきまでのエロい罠の方がずっとよかった。聞いてるだけで気が滅入ってくる。日本には貧困があって底辺の連中は地獄を見てる。知識としては知っていたが、貧困地獄からナマで話を聞かされたのは初めてだ。それに妙に目が据わっていて、瞬きもせずにオレを見つめている。怖い。
正直言うと搾取される相手が金持ちから夏神に変わっただけで幸福とは思えないんだが、本人がそう思っているならそれでいいんだろう。オレには関係ない。それにしても、今の話はどこまで本当なんだ? 妄想も入ってるような気がする。確かに娘に売春させてる親はいる。時々逮捕されたってニュースが流れる。でも、こいつはさらに薬漬けとかいじめとか、そこまで悪いことが重なるものなのか?
「売春やってる時はほんとに苦しくて、その頃ずっと自傷してました」
そう言って冬野は腕をまくって見せた。無数の傷痕がある。すでに治って白く盛り上がってでこぼこになっている。お世辞にもきれいとは言えない。でも、オレはそこから目を離せなくなった。