この街に残った数少ない昔ながらの喫茶店だ。白髪のマスターひとりしかいない。客も昔からの常連が多く、還暦過ぎたじいさんとばあさんばかり。オレは何度か来たことがある。ゆったりした造りの静かないい店だが、オレの部屋に近すぎて逆に行きづらい。ランチでもやってれば別だが、ここは頑なに食事の類いは出していない。
店に入る前に廃島以外のスーツの連中は離れていった。店の近くに待機して、なにかあったら飛び込んでくるつもりかもしれないので安心はできない。
「ぶしつけな真似をして大変失礼しました。お詫びいたします」
店に入ってすぐに廃島は頭を下げた。もっと高圧的な態度を予想していたオレは拍子抜けした。
「そんなことはどうでもいい。オレになんの用があるんだ?」
「工藤さんを一年間専属で雇用したいと考えています。報酬は二千万円でいかがでしょう?」