オレの事務所に戻るとすぐに打合せが始まった。夏神に報告を求められ、オレはこれまでにわかったことを説明し始めた。
「まだ断片的でまとまっていないんだが、とりあえず重要そうなことをランダムに言う。ハイテックサポートや他の数社がハッカーたちとの契約の窓口になっているが、そこに資金を提供しているのはアメリカのブラックゲーム社だ。オレは知らなかったが、その世界では有名らしいな」
夏神がうなずく。
「マジモンでヤバイです。武闘派のサイバー軍需企業です。おわかりですか?」
冬野がメガネのつるをつまんで持ち上げる。メガネ女子のそういう仕草にはどきりとする。
「サイバー軍需企業が業務を拡大するために、使い捨てられる下っ端の兵隊を増員してたって構図なのか?」
「そうでしょう。ただし彼らはすでに世界有数のリソースを保有しているはずなので、ここまで強引な方法で人員を増やすには理由があるはずです。新しい作戦や戦争の準備かもしれないです」
「あのさ。サイバー軍需企業の作戦とか戦争ってようするにアメリカ政府の作戦や戦争ってことだよな。そんなのに巻き込まれてるのか?」
「工藤さん、いったんネットに接続すれば世界中から攻撃が来ます。スパムだって世界中から来るでしょう。あたしたちはネットに接続した瞬間から世界を敵に回しているようなものです。プロならその覚悟を持ってください」
「……お前が正しい。その通りだ」
死にたくなるような身の上話をしていたメンヘラ女とは思えない激変ぶりだが、言ってることはイヤになるくらい正しい。ネットでは常に世界が敵だ。頭ではわかっていても気持ちはついてゆかない。