>>第 1 回から読む「会社に恨みを持つ人間を個別に尋問することもできますよ」大島がため息混じりで言った。こいつ自身もそれが難しいことは承知しているのだろう。ダメもとで訊いてみたという感じだ。「無理。数が多すぎる。言っちゃ悪いけど、ここって限りなくブラックに近いだろ。誰でも恨みもってる可能性がある。それとも心当たりでもあるの?」「ブラック…当社が依頼主だということを忘れないでください。私は気にしませんが、中には血の気の多い者もおります。即座に発注取り消しになりかねませんのでご注意ください」大島の言葉が終わる前に、オレの横に笑顔で腰掛けていた沢田が机に両手をついて頭を下げた。そして大声で謝る。「あっ! すみません! 以後気をつけます!!」オーバーアクションすぎて、ふざけてるんじゃないかと思うくらいだ。「申し訳ない。気をつけるよ」オレもいちおう謝ってみせた。「こちらも、工藤さんがどういう方か存じ上げてた上でお願いしているので、ある程度は許容したいとは思っています」大島がにこりともせず言った。変な日本語だな、と思ったが、そんなことを言うわけにもいかないので、殊勝に黙っていた。「さっきのご質問ですが…そうですね。例えば、会社を退職することになった退職した二百人に恨みを持つ人間に限定するのはどうでしょう?」「それにしたって、オレひとりで調べるには多すぎる。全員の身上調査をして、さらに一人当たり十人くらいの恨みを持つ人間を調べるわけだ。二千人もいる。完全に警察の仕事だが、警察だってこれくらいの事件でそんな大規模な捜査はできないだろうな。そうだ! 社内で実行犯らしいヤツを告発してくれたら報奨金を出すって言ってみたら?」「それはすでに実施しました」大島がまたため息をついた。「ものすごい数の情報が寄せられましたが、どれも具体的な根拠のないものばかりでした」大島の話にオレは苦笑した。「社内の足の引っ張り合いがすごいってことがわかるよな。目撃情報がでてきても信用できないな。期待できるのは自白くらいか」「残念ながら、その通りです」「逆に言えば、今の状況なら誰かが『私がやりました』と言えば、そいつを犯人にできるわけだ。だから、一番責任のあるあんたが、実行犯になってくれれば一件落着だ」「はあ、でも私は犯人ではありません」>> つづき