世界はこれまで国家(State)が中心的なアクターとなることで動いてきた。今でも多くのことは国家を単位に語られることが多い。しかし近年それ以外のアクター = 非国家アクター(Non State Actor)の重要性が増してきた。もっとも注目されている非国家アクターはいわゆる GAFAM などのビッグテックで、それ以外にも数多くの非国家アクターがいる。本連載では、こうしたまだ知られていない非国家アクターを取り上げて/よく知られている非国家アクターの知られていない面を取りあげてご紹介してゆきたい。
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「TikTok テロリスト(TikTok terrorist)」という言葉をご存じだろうか? 実は TikTok で影響を受けてテロリストになる人々が増加している。特に若年層、10 代に多いことが特徴で、彼らは TikTok テロリストと呼ばれる。
SNS プラットフォームが社会を悪くするというかつての決まり文句には、さまざまな疑義がつきつけられて最近下火になってきているが、TikTok への批判はいまだに健在だ。大きな要因のひとつは中国由来だから叩きやすいということもあるだろう。米国では共和党を中心とした右派が偽・誤情報の研究者などをターゲットに攻撃するキャンペーンが 2 年くらい前から行われており、そのおかげで米国の偽・誤情報研究は大幅に後退し、SNS プラットフォームのモデレーションも後退した。
一方で党派的、選挙的(地政学的とか安全保障的というと少しはマシに聞こえるかもしれない)な文脈でのビッグテック攻撃や TikTok 攻撃は継続している。そのおかげで、欧米あげて TikTok の危険さを広めるキャンペーンが進んでいるわけだが、TikTok がテロリストの温床になっていることについては一部で問題視されているものの政治的な議論はあまり行われていない。
● TikTok で特別待遇を受ける過激派
TikTok は全般的に人の感情を刺激する方向、より具体的に言えば過激にする方向のコンテンツを推奨する傾向がある。イギリスのシンクタンクである ISD は 2024 年 9 月に公開したレポートで、TikTok には白人至上主義的な傾向を持つ利用者に白人至上主義のコンテンツを薦めるアルゴリズム、つまり潜在的な白人至上主義者を顕在化させるアルゴリズムになっていることを指摘している。また、モデレーションの甘さのため、ヘイトなど問題のあるコンテンツやアカウントが長期間残っていることもわかっている。
TikTok の発表によれば、これまで 9,100 万本以上のコンテンツを削除しており、96.7 % 以上はユーザーからの連絡前に削除していたという。これだけ見ると、きちんとモデレーションしているように思えるが、ISD の調査対象のコンテンツ(全て規約違反)は場合によっては数年間削除されずにいた。TikTok は大量のコンテンツに対処しているが、そこから漏れるコンテンツも大量にあるようだ。そして、TikTok のアルゴリズムによって、フォロワー数の少ない投稿者のコンテンツでも 10 万回以上再生されるなど多数にリーチすることが可能となっている。