世界はこれまで国家(State)が中心的なアクターとなることで動いてきた。今でも多くのことは国家を単位に語られることが多い。しかし近年それ以外のアクター = 非国家アクター(Non State Actor)の重要性が増してきた。もっとも注目されている非国家アクターはいわゆる GAFAM などのビッグテックで、それ以外にも数多くの非国家アクターがいる。本連載では、こうしたまだ知られていない非国家アクターを取り上げて/よく知られている非国家アクターの知られていない面を取りあげてご紹介してゆきたい。
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●生成 AI の根幹をゆるがした 2 つの調査結果
数年前から生成 AI が大はやりである。生成 AI の扱われ方は新しい神様のようだし、それを布教している人はカルト信者のようにすら見える。今年に入ってもまだブームは去る気配がない。そんな中、ChatGPT など 10 の著名な生成 AI モデルが 32 % の確率でロシアの陰謀論を回答することがわかった(https://www.newsguardtech.com/special-reports/generative-ai-models-mimic-russian-disinformation-cite-fake-news/)。
マイクロソフトが Windows とともに配布している Copilot も対象だ。Copilot が陰謀論を回答するということは、パソコンが陰謀論者になるようなものだ。
その原因はちょっと考えればわかることだが、学習データに陰謀論が含まれていたことにある。ご存じの通り、生成 AI の学習には莫大な量のデータが必要だ(あと電力も)。ネットの Web サイトや動画から学習しているのだけあって、悪いことも学んでいるわけだ。
やばそうな Web サイトや動画をあらかじめはじいておけばいいのだが、 Web サイトや動画は気が遠くなるほどあり、その内容を調べて排除するというのは、それこそ生成 AI がやるべきことだったんじゃないかという気がする。
追い打ちをかけるように、生成 AI が陰謀論拡散 AI に成り下がったのは、大手メディアの 88 % が生成 AI の学習に使用することを許可していないという記事(https://www.newsguardrealitycheck.com/p/reality-check-commentary-information)が出た。比較的まっとうな記事を提供している大手メディアの記事が使えないなら、陰謀論 AI になるのも無理はないとも言える。
●ネットの信用格付け機関 NewsGuard 社
この 2 つの調査結果を発表したのが、今回ご紹介する非国家アクター(Non State Actor)である NewsGuard 社(https://www.newsguardtech.com)だ。同社はもともと企業ブランドを守るためのサービスを提供する会社としてスタートした。インターネットには無数の Web サイトが存在する。その多くは広告を掲載している。そして多くは陰謀論だったりろくでもないコンテンツを掲載している。そんなところに広告が載ると企業イメージが悪くなるだけではなく、内容によっては「犯罪を推奨しかねない Web サイトに広告料金として資金提供している」と不買運動が起きることだってある。