世界はこれまで国家(State)が中心的なアクターとなることで動いてきた。今でも多くのことは国家を単位に語られることが多い。しかし近年それ以外のアクター = 非国家アクター(Non State Actor)の重要性が増してきた。もっとも注目されている非国家アクターはいわゆる GAFAM などのビッグテックで、それ以外にも数多くの非国家アクターがいる。本連載では、こうしたまだ知られていない非国家アクターを取り上げてご紹介してゆきたい。
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「三つ子の魂百まで」という言葉があるが、地域それぞれの特性、文化は年が経っても容易には変わらないようだ。Global Project Against Hate and Extremism( GPAHE:憎悪と過激主義に反対するグローバルプロジェクト)によると、戦後のドイツにはナチの残党が政府や軍の要職(大臣や将軍にまでいた)、裁判官、弁護士、警察など数多く残っていた。その一部は 1960 年代のフランクフルト裁判や、1965 年にドイツで刊行された、要職に就いている元ナチ 1,800 人の詳細を暴露した書籍「Braunbuch(Albert Norden 著)」で暴かれた。
その後、アメリカで制作されたホロコーストに関するテレビシリーズ(日本ではテレビ朝日が放映)が 1979 年に西ドイツで放映されたことで国民の意識はようやく大きく変化した。実は多くのドイツ人がアウシュビッツ等で何が起きていたのかそれまで知らなかった。本当にふつうの戦時下の強制収容所と思っていたが、フランクフルト裁判や映像作品で事実を知ることとなり、一気に世論が反ナチに傾いて公職追放、責任追及が始まった。
● 極右政党が最大野党に
しかし近年ドイツでは、「QAnon(キューアノン:アメリカ発祥の陰謀論で、闇のエリート、悪魔崇拝者、小児性愛者が世界を牛耳っていると信じ、トランプやプーチンを救世主と呼ぶ場合があり、世界中に信者が存在し各地で事件を起こしている)」などの陰謀論、人種差別、極右、ネオナチなどの動きが活発になってきている。
それを象徴するひとつが極右政党「AfD(Alternative für Deutschland:ドイツのための選択肢 / 編集部註: fur の u は独語ウムラウト文字)」の台頭である(なお AfD は自身を極右とは言っていない)。AfD は 2017 年のドイツ連邦選挙で 94 議席を獲得し、第 3 位の政党、ドイツの最大野党になった。連邦憲法擁護庁によると、2022 年の時点でドイツ国内約 4 万人の過激派のうち、1 万人以上が AfD のメンバーだった。
ネオナチグループである「NSU(Nationalsozialistischer Untergrund:国家社会主義地下組織)」は、1999 年ニュルンベルク、2001 年と 2004 年ケルンで爆弾テロを起こし、銀行強盗を 14 回行って 60 万ユーロを強奪した。2000 年 9 月から 2006 年 4 月にはトルコ系、ギリシャ系、クルド系の移民 9 人を殺害している。