日本がフェイクニュース大国に? - 書評「フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器」 2ページ目 | ScanNetSecurity
2020.10.27(火)

日本がフェイクニュース大国に? - 書評「フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器」

同書は、日本ではまだ充分な理解がされていないフェイクニュースを、国家の新しい軍事力行使形態「ハイブリッド戦」をキーワードにして、後半に調査分析し深く読み解いています。

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 2016 年の米大統領選にもロシアが介入し、トランプ氏を当選させるための世論操作を行っていたことはご存知の方も多いだろう。フェイクニュースを拡散させたロシアのネットトロール(荒らし)部隊「インターネット・リサーチ・エージェンシー( IRA )」には、年間数百万ドルほどの予算が投入され、米ネット広告には毎月数千ドルが費やされていた。ここまで大規模な予算が組織的フェイクニュースの製造・拡散に費やされているのか……と思うかもしれないが、著者はこう述べる。

 “ 正直、安いと感じてしまった。年間数百万ドルといえば数億円である。(中略)それでここまでアメリカ社会を撹乱できるのなら、やらない手はないと思うだろう ”

 さらに、知らず知らずのうちに、私たち一般ユーザーが拡散に手を貸し、ハイブリッド戦の「兵器」になってしまうところにも、フェイクニュースの怖さがある。

 “ ロシアはそれほど複雑なことをしたわけではない。ある時点まで用意をすれば勝手に金を目当てに活動する人々や、興味本位あるいは見当違いの正義感にかられた人々が拡散してくれる ”

 事実かどうかを一つずつ確認し記事を書くのは、たとえ短い記事であっても大きなコストと労力がかかる。その点、フェイクニュースは非常に費用対効果が高く、人々の興味をそそるようなウソを仕立て上げれば、あとは勝手に広がっていくのだ。

●日本も「フェイクニュース大国」に?

 世論操作は昔から行われているが、デジタル時代になり、低コストでより広範囲に、そして瞬時に影響を及ぼすことが可能になった。著者が言うように「やらない手はない」のだろう。ロシアに限らず、現在は少なくとも世界48ヵ国の政府や政党が、同様の工作を行っているという。

 世界の状況を考えれば、日本だけが例外とは考えにくい。

 実際のところ日本は、世論操作のターゲットになりやすいとされる脆弱性 4 つ --「少数民族の存在」「内部分裂」「他国との緊張関係」「脆弱なメディアのエコシステム」--をすべて満たしているという。そのほかにも、国内に存在する多数のボットアカウントやフィルターバブル、文化的特徴などを考えると、日本も「フェイクニュース大国」になりうると著者は警告する。

 報道機関が事実を検証するファクトチェックやメディアリテラシー対策は少しずつ広がっているものの、それだけでは「有効な防御方法とはならない」とも断言する。日本も、国内・国外勢力による世論操作のターゲットになる(もしくはすでになっている)可能性は十分にあると言えるだろう。

 本書は、情報戦争とフェイクニュースの実態をグローバルな視点で俯瞰するだけでなく、日本国内の状況も丁寧に分析している。これまでの主要な海外研究、レポート、調査報道を網羅した貴重な資料であり、ネット情報社会に生きる誰もが読むべき一冊だ。


耳塚佳代
:フリーランス記者、翻訳者。日本ジャーナリスト教育センター( JCEJ )運営委員。1985 年生まれ、立命館大学国際関係学部卒。2008 年共同通信入社。松江支局で警察・行政担当、国際局海外部・英文記者職を経て 2015 年退社。現在はフェイクニュースやメディア・リテラシーに関する執筆、海外事例の調査・発信などを行っている。
《耳塚 佳代》

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