Scan Legacy 第二部 2006-2013 第7回「TOB初体験」 | ScanNetSecurity[国内最大級のサイバーセキュリティ専門ポータルサイト]
2017.10.23(月)

Scan Legacy 第二部 2006-2013 第7回「TOB初体験」

特集 コラム

本連載は、昨年10月に創刊15周年を迎えたScanNetSecurityの創刊から現在までをふりかえり、当誌がこれまで築いた価値、遺産を再検証する連載企画です。1998年の創刊からライブドア事件までを描く第一部と、ライブドアから売却された後から現在までを描く第二部のふたつのパートに分かれ、第一部は創刊編集長 原 隆志 氏への取材に基づいて作家の一田和樹氏が、第二部は現在までの経緯を知る、現 ScanNetSecurity 発行人 高橋が執筆します。

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(本稿は可能な限り正確な記述に努めますが、記載事項にはときに、誤った記憶等により、正しくない場合があることをあらかじめおことわり申し上げます)

2009年7月30日、外回りから戻った私は、いつもと社内の雰囲気がほんの少し違っていることに気づきました。

すぐに目を通すように促された、社長の坂巻さんから全従業員向けにあてられたメールには、バリオセキュア社取締役会が、投資ファンドのアントキャピタルパートナーズが設立した特別目的会社が行う株式公開買付(TOB)に賛同した旨が書かれていました。坂巻さん他、創業に携わった主要取締役は来月の株主総会でなんと全員退任するそうです。

あれ。

「来月退任」というメールが7月30日に届いたということは、実質的にこのメールが届いた時点で坂巻体制は終焉したと考えてよいものでした。

わたしはこれを読んで、ようやくこれまでの坂巻さんの煮え切らない態度が腑に落ちました。おそらく数か月前から、状況は決しており、それでも私に経営のモラルを伝えようとされていたのだとわかりました。たった4ヶ月しかこの方の下で働けなかったことが悔やまれます。

すでに通信社のロイターなども TOB の件を記事にしていたので、セキュアスカイ・テクノロジー社の乗口社長から私宛に電話がありました。当時SSTさんにはScanNetSecurityをスポンサーとして支援いただいていました。

乗口さん「TOBの話、聞きましたよ。Scanを買収した会社って、必ずその後で、社長が逮捕されたり、副社長が解任されたり凄いなあと思ってましたが、今度は会社乗っ取りですか。Scanを買うととんでもないことになるジンクスでもあるんですか」

こうして「猛烈にイヤな予感」は的中したわけです。とりあえず請われて買われるのが M&A だとすると、TOB は、友好的にせよ敵対的にせよ、外から会社を乗っ取られる訳ですから、だいぶ勝手は違うだろうなとぼんやり想像しました。

Scan 買収を推進した創業社長の坂巻さんは、創刊当時からの Scan の読者でもあり、原さんが設立した「ネットアンドセキュリティ総研」に敬意を表して、言い換えるとScanのブランドの価値にリスペクトを持って、社名を「ネットセキュリティ総合研究所」と似た商号に登記しました。その坂巻さんが実質あと1ヶ月以内で退任するわけですから、おそらくScanのいっさいの後ろ盾が無くなることは確実でした。

大変なことになったのは明らかなのですが、この状況を恨む気持ちはさらさらありませんでした。サイボウズ・メディアアンドテクノロジー社はあのままではいずれ倒産か精算を免れない状況だったので(実際精算されました)。

「今後は、現経営陣に加えてアント社から経験豊富で優秀な経営陣を迎え、今まで以上に積極的でダイナミックに事業を展開することになります。」

わたしは、念入りに推敲されたとおぼしき、きれいに全角36文字の箇所で改行された、坂巻さんの流麗な文章のメールに目を通しながら、ライブドアの強制捜査の最中のような、宙ぶらりんのサスペンド状態の心理を再び迎えました。TOB 成立は9月なので、まだ時間も少しあったのです。

9月になると TOB は成立、高額報酬を食む新自由主義経済の勝ち組「経験豊富で優秀な経営陣」が何名もやってきました。とりあえず実質的な代表は及川さんでした。

及川さんは、映画「M:i:III」でグローバル企業の経営者を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンを、さらに強面にしたような堂々たる体躯の人物でした。一番最初の顔合わせの会議で、ご自身の自己紹介をすることも、こちらの名前を聞くことすらなく、ただ一言、

及川さん「この計画書に書いてある数字が達成しなかったら、こん中で腹を切るのは誰なんだよ」

と、初対面で顔面に正拳突きをくらわすような胆のすわった発言をする、またまたギャングスターな人物でした。ただ一人旧取締役陣から留任した長谷部さんはすぐに「ネットセキュリティ総合研究所の売上の全責任は営業担当役員の私にありますので、腹を切るのは私ということになりますね。ウホホホホホ」と、いつものスマイルで擁護してくれましたが、いまや長谷部さんの退任も時間の問題でした。

初代編集長の原さんが「人を殺さないレクター博士」だとすると、ファンドから来た彼らの印象は「法律を守る闇金ウシジマくん」といえばうまく伝わると思います。事実「切腹」発言をしていた及川さん自身が、その後の業績不振で躊躇なく退任したことがそれを裏付けます。

これまでほぼトントンで運営していたScanNetSecurityは、譲渡価額6,400万円ののれん代償却(1,888,888円/月)で、キャッシュアウトはないものの、毎月200万円近い赤字になっていることが当面の問題でした。

及川さんは当時、取締役会で「こんなチンケなメディア事業やってても仕方ないから NPO にでもしちゃおっか」などと不穏なことを発言しており、いよいよマズいなと私も感じはじめました。おりしも親会社のバリオセキュア社では、「役職の高い人」「報酬の高い人」「年齢の高い人」「住宅ローンや成人前の子供がいる人」の順番にリストラが進行しており、要は嫌われることを率先してやるのがファンドの役割なのだなと感じました。

長谷部さんが退任すると、ネットセキュリティ総合研究所は、及川さん、ニックさん、松井さんというファンドから派遣された3人の取締役プラス私という新体制で再始動しました。月に一回開催される同社役員会における私が、カウカウファイナンスの事務所に拉致連行された多重債務者のように孤立無援であったことは言うまでもありません。さしずめ「ネットメディアくん」というところでしょう。

(ScanNetSecurity 発行人 高橋潤哉)
《高橋 潤哉》

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