Scan Legacy 第二部 2006-2013 第5回「ScanNetSecurity誕生」 | ScanNetSecurity
2024.03.28(木)

Scan Legacy 第二部 2006-2013 第5回「ScanNetSecurity誕生」

2006年9月にサイボウズ・メディアアンドテクノロジー社が設立され、土屋さんが社長に就任、その後、2009年3月にScan事業が3回目のM&Aでバリオセキュア・ネットワークス社(当時)に売却されるまでの3年間は、Scanは事業としては踊り場にありました。

特集 コラム
本連載は、昨年10月に創刊15周年を迎えたScanNetSecurityの創刊から現在までをふりかえり、当誌がこれまで築いた価値、遺産を再検証する連載企画です。1998年の創刊からライブドア事件までを描く第一部と、ライブドアから売却された後から現在までを描く第二部のふたつのパートに分かれ、第一部は創刊編集長 原 隆志 氏への取材に基づいて作家の一田和樹氏が、第二部は現在までの経緯を知る、現 ScanNetSecurity 発行人 高橋が執筆します。

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(本稿は可能な限り正確な記述に努めますが、記載事項にはときに、誤った記憶等により、正しくない場合があることをあらかじめおことわり申し上げます)

2006年9月にサイボウズ・メディアアンドテクノロジー社が設立され、土屋さんが社長に就任、その後、2009年3月にScan事業が3回目のM&Aでバリオセキュア・ネットワークス社(当時)に売却されるまでの3年間は、Scanは事業としては踊り場にありました。

一番の原因は、Scan事業が保有していた3億円弱の銀行預金を使って買収したシンクライアント事業の不振でした。デューデリジェンスの問題などがあったらしく、津幡さんの懐刀として赴任していた事業部長の安田さんは、早々に本社に逃げ帰ってしまいました。OSを作っている世界的企業から引き抜かれたという大変に頭の切れる人だったので、きっと勝ち戦以外はできない体質だったのでしょう。

結果、Scanの売上目標額はシンクライアント事業の売上目標未達額とニアリーイコールになるという、事業間シナジーもここに極まれりという状況になりました。

その当時のScan編集部の一日はこんな感じです。

1) 朝6時
家を出て関東近県に電車(特急は乗れない)で向かう

2) 朝9時~17時頃まで
群馬とか栃木とか埼玉とかの市町村に着いたら、駅でその町の教育委員会の場所を調べ、アポ無しで訪問(!)、シンクライアントのセールストークをして、情報システム部門担当者の方とできれば名刺交換する

3) 20時~25時
溜池山王にあるサイボウズ・メディアアンドテクノロジー社のオフィスに戻って、Scan関連の業務を行う

翌朝、(1)へ戻る。それでもシンクライアント事業は良くはなりません。

ちょうどこの頃、札幌に隠居していた初代編集長の原さんから「高橋さん、そろそろScanは辞めてどっか転職した方がいいよ。CNETの大日さん紹介しようか」と頻繁に連絡をもらうようになりました。一度などはわざわざ電話で連絡をくれて、ろくでもないところに売却される前に退職するよう諭されたことがあります。こうして書くと、何気なく読まれるかもしれませんが、原さんはかねてより、愛人か愛人候補、または金銭的メリットがある人以外には絶対に自分からは電話をかけない人物として知られており、よほどの情報や噂を聞きつけたのだと思います。

創刊編集長から親身に退職を勧められるという泣き笑い的な状況を迎えていましたが、当時はコンプライアンスブームでセキュリティ業界は活況を呈していました。Scanも事業の質的成長としては踊り場でしたが、キーマンズネットから転職した営業担当を増強し、年間売上額が8,000万円を超えるなど過去最高の業績を挙げました。

キーマンズから転職してきた営業担当の板井さんは、坊主頭で大変にオシャレな人物で、キーマンズの営業先としてLAC社を訪問しセキュリティの世界に魅せられ、LACに入社しようとしたが、人事の人に紹介されScanに来たという変わった経歴の人物で、キーマンズ時代は何度かMVPや社長賞を獲った、リクルート社の文化をいい意味で体現した、志の高い、Scanにはもったいないような営業マンでした。

板井さんは、在任中ほぼパーフェクトに数字目標を達成し続けた貢献はもちろん、Scanのブランドに消えない足跡を残しました。メールマガジンのブランドのScanと、ニュースサイトのブランドのNetSecurityの統合です。

同じニュースメディア事業なのに、ふたつのブランドが存在した理由は、ライブドアの子会社だった時代の売上按分の取り決めで、両者が別の商品とみなされていたことに由来するのですが、ライブドア傘下を離れて意味の無いものになっていました。

板井さん(デスクで夕食を終え爪楊枝を口の中でいなたい感じにくるくる回しながら)「高橋さん、ScanとNetSecurityってなんで別々の名前なんですか」

「まあ、いろいろ理由があって別になってるんだよね」

板井さん「だったら、一緒にしちゃったらいいんじゃないすか」

「なんか新しい名前考えるかね。いいアイデアある?」

板井さん「そんなもん『ScanNetSecurity』でいいっしょ」

これがブランド統合されScanNetSecurityが誕生した瞬間です。

この当時は、とにかくシンクライアント事業の再生が全社の目標となっており、交通費以外の経費申請と、Scanとして新規事業をやることを見事に禁じられていましたので、その反動で、スポンサーを探してPCIDSSの研究サイトを作ったりと、社外のスポンサーと新しいものを作ることに取り組みました。それ以外に方法がなかった訳です。

なかでも成果といって良いのは、海外のセキュリティベンダのブログの日本語化です。CNN、BBCなどの一般メディアにも引用される著名なブログのローカライズに取り組み実現させました。特に、社外の専門家の方にゲストブロガーとして参加していだくという、企画の相談をした高間剛典さんからいただいたすごいアイデアをほぼそのまま使ったことが、普通の企業ブログを超える価値を生み出せたと思います。高間さんには会うたびお礼を申し上げております。

このように3年間踊り場で足踏みをつづけていたScanNetSecurityでしたが、2009年2月、突然土屋さんから屋上に呼び出されました。その当時は8階建ての恵比寿の雑居ビルに入っていました。タバコをすすめられ、火をつけて、一服吸うのを待つと、

土屋さん「高橋さん、Scanをバリオセキュアに来月売ることにしました」

私は「はい」と即答しました。今より悪くなることはめったにない状況でしたから。

土屋さん「会社は知ってますよね。まだ社外には言わないで下さい。あと、事業部じゃなくて新会社を設立して高橋さんには役員で入ってもらう予定です」

「わかりました」

原さんは「ろくでもないところに売却される前に」と言っていましたが、バリオセキュア・ネットワークス社は当時大証に上場している優良企業でした。アプライアンスの箱売りではなく、セキュリティをサービスとして提供するビジネスモデルを先駆的に始めて急成長した会社で、セキュリティ企業というよりはキーエンスのような部類の高収益先進企業として私は見ており、ろくでもないどころの話ではなくその正反対でした。

当時、一部のサイボウズ子会社から深刻な労務トラブルの噂なども聞こえてきており、事実2009年春頃から、10数社あった子会社の多くは売却されることになります。私は土屋さんを慶應卒・外資コンサル出身・高学歴DQNくらいに思っていましたが、チンピラみたいな社長だったからこそ、守られていたこともあったのだと今になって思います。少なくとも労務トラブルとは無縁で仕事をしていました。

2009年3月19日、事業売却のプレスリリースを目前にして、バリオセキュア・ネットワークス社創業社長の坂巻千弘さんに、恵比寿のオフィスをわざわざ訪ねていただき、初めてお会いしました。

坂巻さんはフランシス・フォード・コッポラ監督の映画「ゴッドファーザー」で俳優のアル・パチーノが演じた、イタリア資本の企業グループの若い2代目経営者マイケル・コルレオーネのような、仕事熱心な感じの方で、超高級ホテルのサービスマンのような、ホスピタリティの雰囲気を持つ方でした。お会いして開口一番坂巻さんは「私はScanがこれまで築いた信頼を大切にして事業を育てていくことを約束します」と、詩の朗読のように(本当)おっしゃるのでした。

坂巻さんは、見たこともないような上質な仕立てのスーツを着て、パテック・フィリップだったかのおそらく数百万円はする腕時計をされていました。

私は、Scanの将来について、人と会話をすること自体が3年ぶりで、大変感激し、救われるような気持ちすら感じたのですが、何か引っかかるものも同時に感じました。誠意が感じられなかったとか、真意の言葉ではなかったとかそういうことは一切ありません。ピリピリするような責任ある言葉をいただいたと思います。

ただ、ライブドア事件やその後の3年間を経験していた私は何かひっかかるものがあり、魁男塾的に言えば「なんだか猛烈にイヤな予感がするのお」というところでした。福本伸行的にいえば「ザワザワ ザワザワ…」でしょうか。

(ScanNetSecurity 発行人 高橋潤哉)
《高橋 潤哉( Junya Takahashi )》

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