未だにオレを「ちゃん」づけで呼ぶ生きた化石はこいつしかいない。大手広告代理店の営業マンにして、オレのエージェントである沢田だ。頭の中は、いつもアロハな無責任男。
「エリカに充分な鉄槌をくだした。これでいったん潜伏する。エリカに再び鉄槌をくだす時がくれば、また降臨するであろう。さらば同志よ、航海は終わりだ」
1週間後、エリカのゲーム子会社の顧客データを公開した。笑っちゃうほど、簡単な仕事だ。どうやって盗んだかなんて説明するのもバカらしい。
笑いがこみ上げてきた。そしてひとしきり笑うと怖くなった。もしかしたら、つかまるんじゃないかという気がした。まあ、こんなことやって、怖がるのも変だけど、やっぱり怖い。
私はマギーと名乗ることにした。匿名でメールアドレスとTwitterのアカウントも取得した。Twitterから犯行声明を出してやる。たった今から個人情報を盗むことを「マギる」とみんなが呼ぶことになる。