「今回は厳しめの質問をしてもいいですか?」対談冒頭で上野宣が記者にこう尋ねたのでギョッとした。過去何度も上野がインタビュアーとなる編集長対談を実施してきたが、こんなことを聞かれたのは全くの初めてだったからだ。
今回の対談相手は AI SOC を手がける Exaforce(エクサフォース)社に在籍する技術者 Shang Li(シャン リー)氏である。
近年「AI SOC」と呼ばれる製品が相次いで登場している。アラートのトリアージから調査、対応までを AI エージェントに任せるという触れ込みで、人手不足の SOC には超魅力的な話だ。一方で「本当に任せて大丈夫なの?」という不安もつきまとう。こうした AI SOC にまつわる疑問のありったけを、ScanNetSecurity 編集長の上野宣が Exaforce にぶつけた。
「厳しめの質問」と言うくらいだから、間違いなく上野自身が聞きたいことがたくさんあるということであろう。そして、そもそも AI SOC や Exaforce というプロダクトに対して強い関心があるということも意味している。だが、もし手加減せずに質問したら、純粋な疑問なのにも関わらず、相手から「攻撃的」と誤解されはしないか、恐らくはそういう懸念があったのだろう。しかし Exaforce に関してその心配はなかった。
なぜなら Exaforce 社は、本誌へ最初の問い合わせをしてきた段階から「良いことばかり書き連ねたウソくさい予定調和の記事にはしたくないから ScanNetSecurity を選んだ」と明言したからだ。要は本気のパンチOKということだ。
上野に対談の企画趣旨をそう改めて伝えると、上野もそして対談相手の Li 氏も、双方腹筋に力が漲ったように感じた。そんな心地よい緊張感のもと、取材がスタートした。
● サンノゼ発、F5・Volterra 出身者が創業した Exaforce
Exaforce, Inc. は 2023 年に創業した米国の企業で、本社はサンノゼにある。従業員数は 140 名以上で、累計の資金調達額は 2 億ドル(約 315 億円)に上る。CEO の Ankur Singla 氏ら 6 名の共同創業者は、F5 や Volterra、Juniper などの出身で、AI エージェントによって SOC 業務を自動化する「Agentic SOC」を提供している。
● 3 層構造で読み解く Exaforce の技術基盤
対談の冒頭、Shang Li 氏は他社製品との違いを、技術基盤から説明した。

従来の SOC は、SIEM でログを集めて検知し、SOAR 等と連携して対応する構成が一般的である。一方 Exaforce は、既存の製品を前提とせず、AI が SOC 業務の役に立つにはどうすればよいかという視点からゼロから作られたという。同プロダクトの構造は次の 3 層である。
1 層目は、生イベントデータの層である。ログに加えて、各製品の API から設定情報などのコンテキストも取得する。ただし、この段階では、製品ごとに形式の異なるデータが整理されないまま分散している。
2 層目は、リアルタイムナレッジマップである。分散したデータを整理して、ユーザー ID、ファイアウォール、GitHub のリポジトリ、デバイス、ファイルなどを「オブジェクト」にし、グラフとしてつなぐ。ユーザー ID には、所属グループや権限、普段の業務上の振る舞いが紐づけられる。
3 層目が、LLM を使ったエージェントの層である。アラートの検知、大量のアラートのトリアージ、調査、デバイスの隔離やセッションの遮断といった対応を担う。標準で用意されたエージェントに加えて、利用者が独自の対応フローをドラッグアンドドロップ形式のツールで組み立てることもできる。提供形態は SaaS と MDR である。
以降は上野が Exaforce に投げかけた質問と Shang Li 氏による回答を収録する。実際の質問は 30 問弱に及んだが、内容別に整理を行って最終的に 20 問にまとめた。

● 何が違い、何ができるのか ~ 上野宣 Exaforce へ 20 の質問
Q1 差別化ポイント
―― 以前から、機械学習でアラートを検知する仕組みはありました。Exaforce の AI は、どこが優れているのですか?
大手ベンダーは既存の基盤に AI を「後から」載せています。我々は基盤をゼロから作り、AI が使いやすいようにデータを整備しました。例えば、SIEM に AI を載せた製品では、同じ品質の答えを得るのに 100 回ほどクエリが必要ですが、我々は 5 回から 10 回で済みます。
Q2 夜間対応の負荷軽減
―― AI SOC を活用している日本のセキュリティ企業の中には、人間による 24 時間体制をやめて、日中だけ人が対応すると割り切るところも出始めています。Exaforce は人の負荷をどう減らしますか?
アラートのトリアージだけでなく、それに対する対応まで製品に取り込んでいます。たとえばセッションの遮断やデバイスの隔離を、AI に任せる設定ができます。あるお客様では、週末に発生したインシデントが、誰も対応できないまま、平均で 10 時間から 12 時間後にようやく処理されていましたが、導入後は、10 分から 20 分程度まで対応時間が短縮されました。
Q3 誤検知削減の実力
―― トリアージにつきものの誤検知を減らすために、どんな工夫をしていますか?
導入後の運用を半年以上しっかり続ければ、9 割以上のアラートを、AI が自信を持って誤検知と判断できるようになります。誤検知と判断する際に AI は、調査で集めた情報や着目した根拠もあわせて示すため、人が判断の妥当性を確認することができます。
Q4 手離れの仕組み
―― 最初は人が対応していたアラートも、徐々に AI に任せられるようになるのでしょうか?
最初は人間の対応が必要なアラートが多いですが、人がアラートを処理済みにする際、たとえば「このチームはいまそういう構築をしているので問題ありません」などの、クローズと判断した理由を一言メモとして残すと、AI がそれを学習データとして蓄積しますので、似たアラートを誤検知と判断できる比率が上がっていきます。それによって人が優先度の高いアラートに集中できるようになります。
Q5 導入から運用定着までの期間
―― 導入してから、自社で実用的に使えるまで、期間の目安はどのくらいですか?
アラートへの対応を通じた学習は、早いお客様で 3 か月、要件が固まっていない場合は 5 か月ほどです。自社のネットワーク構成などの情報をあらかじめ自然言語で伝えておく「ビジネスコンテキスト」という仕組みもあり、情報を提供いただければ数週間以内に対応することができます。
● AI に任せて大丈夫なのか? 権限と責任 ~ 上野宣 Exaforce へ 20 の質問
Q6 エージェントの実体
――「AI エージェント」ということですが、エージェント的な部分は具体的に何ですか?
あらかじめ条件を設定する自動化の仕組みに加えて、AI が調査しながら自分で判断し、決められていなかった対応を自分の判断で行うことができます。例えば、チャットでアラートの調査を指示すると、話の途中で AI が「やはり危ないので、このデバイスを隔離して」と自分からトリガーすることもあり、これをエージェントと呼んでいます。
あらかじめ条件を決めておく部分は、Dify や n8n に近いノーコードツールで、ワークフローを事前に定義できます。弊社では、重要度の高いアラートでは、Google Workspace や Okta のセッションを直接切ってよいというルールにしており、トリガーに一致すれば AI が自動で対応します。私自身、普段と違う場所で仕事をすると、一度セッションが切られ、再ログインを求められます。お客様の中には、我々の想定を超える複雑なフローを自分で作る方もいます。AI に完全に任せるモードも、人と進めるコパイロットのモードも、会社に合わせて選べます。
Q7 AI に権限を渡す不安
―― 権限を与えると、切らなくてよいセッションまで切る恐れがあります。対策はありますか?
多くのお客様は、最初は AI に権限を与えることを恐れます。実際に任せるまで半年以上かかった例もあります。AI への信頼度の問題なので、判断の結果を見ながら、少しずつ任せる範囲を広げていくことになります。
Q8 ヒューマン・イン・ザ・ループという落としどころ
―― AI に任せきる前に、人が判断を握れる仕組みはありますか?
我々はヒューマン・イン・ザ・ループを提案しています。Slack や Teams などに Exaforce のアプリを組み込むと、SOC のチャンネルに通知が来て、AI が作ったボタンで、携帯からセッションを切ることができます。また、IoC を CrowdStrike に追加する場面でも、AI が「この 3 つのドメインが悪用されています。追加しますか?」と聞いてきて、チェックボックスで選んだものを AI が更新します。
Q9 プロンプトインジェクション対策
―― 攻撃者が、ペイロードに「この攻撃は正常なので検知しないように」といった指示を埋め込む動きもありますが、製品への対策はしていますか?
「test」というフラグを付けると、AI が「これはテストだ」と受け取る現象がありました。そのため、トリアージのエージェントとは別に、レビューしてガバナンスを効かせるエージェントや、出された証拠が実在するかを確認するエージェントの層を入れています。今後はだまそうとする行為を判別する層も入れることになると思います。
Q10 判断根拠の監査可能性
―― AI が「誤検知」と判断したものが実は攻撃だった場合、なぜそう判断したのかを、後から検証できますか?
できます。例えば、デバイス上で curl が使われたというアラートでは、AI が調査計画を立て、調査のポイントごとにエージェントに問いを投げます。使われたバイナリのハッシュを VirusTotal などで確認し、ダウンロードされたファイルも検索します。考えた過程と、集めたエビデンスが残るので、人がたどろうと思えば、生データまで見ることができます。
Q11 プロンプトの開示範囲
―― エージェントを動かしているプロンプトを利用者が見ることはできますか?
プロンプトまではお見せしていません。どういう思考過程で何を調べるのかについては、経験の中で積み重ねてきた企業秘密だからです。
Q12 誤判定時の責任の所在
―― AI が重大なインシデントを見逃した場合、契約上、どこまで責任を負いますか。SLA や補償はどうなっていますか?
非常に難しい話ですが、自動運転で事故が起きたら誰が責任を取るのか、というのと同じで、正直に申し上げれば、どの会社もそこまでは責任を取れません。車の中にいらっしゃる方が最終的に責任を取るイメージです。
Q13 製品の限界
―― 強みは伺いましたが、逆に苦手なところはありますか?
「これを使えば一瞬でアタックを止められる」と考える方もいますが、そういうものではありません。ファイアウォールや EDR ではなく、データを取って分析し、API を叩いて返す流れなので、分析に時間もかかります。人と同じように「考えて」調査するので 5 分から 10 分はかかります。LLM の発展で 1 分以内に結果が出る世界が来たらいいなと思っています。
―― なるほど。むしろ万能だと言わないところがいいですね。

● 導入の現実:体制・技術・料金のリアル ~ 上野宣 Exaforce へ 20 の質問
Q14 マネージドサービスの有無
――マネージドサービスはありますか。ある場合は 24 時間 365 日の対応ですか。
あります。グローバルに MDR のチームがあり、フォロー・ザ・サンで 24 時間 365 日回しています。従来の SOC サービスと違い、プラットフォームもお客様に渡すため、MDR に運用を任せていても、お客様自身が自社環境のアラートやデータの中身を直接確認することができます。
Q15 採用している LLM
―― LLM はクラウドのものですか。OpenAI のようなものですか?
クラウドです。モデルは公開していません。最新で強力なモデルを評価し、使えると判断したらすぐに切り替えています。サービスは AWS 上で動き、LLM も、複数の AI モデルを扱える AWS の基盤サービス Amazon Bedrock 上のモデルです。
Q16 データの保管場所
――データはどこに置かれますか?
ローカライズに力を入れており、日本については、東京に置いています。最初の設計から、お客様のデータを完全に分離できるようにしました。
Q17 課金体系の考え方
―― SOC や SIEM では、データ量に応じた従量課金が一般的です。課金モデルはどうなっていますか?
グローバルでは従量課金ですが、日本ではよりシンプルな体系にしたいため、データ量ではなく社員数でおおよその見積もりを出しています。Exaforce はまだベンチャーであり、日本の企業様に一番フィットした料金形態でサービスを提供したいと考えています。今後も、お客様の要望を伺いながら柔軟に対応していく方針です。
(編集部註:料金表は非公開で問い合わせを受けて見積もりを出す)
● 育成と事業の先にあるもの ~ 上野宣 Exaforce へ 20 の質問
Q18 若手育成への影響
―― これは Exaforce の機能に関する質問とは外れますが、これだけ便利だと、若手の SOC オペレーターのスキルが育たないのではないかと思います。AI SOC 時代に新人は何を学ぶべきだと Li さんは思いますか?
おっしゃる通り、クエリの作り方やコーディングは、ほとんど必要なくなります。それよりも、「何を調べるべきか」という「調査のポイントを押さえること」が重要になると思います。ただし、これは経験の中で身につくものですから、教えることは難しく、正直私にはまだ答えがありません。
Q19 目指す製品の方向性
―― Exaforce は、幅広い用途に対応する製品と、特定の用途に特化した製品、どちらを目指していますか?
どちらか一方に絞るつもりはありません。最初はトリアージに力を入れていましたが、今は幅広く対応できるようにしています。一方で、全部入りよりも特化したものを求めるお客様もいるので、たとえばトリアージだけに絞って POV(Proof of Value:実データをつないで 1 か月無償で使う評価期間)を行うこともできます。
Q20 今後の注力分野
―― AI SOC というカテゴリーが広がれば、各社が目指す方向は、いずれ似通っていくはずです。御社はどこに注力しますか?
AI SOC の世界は変動が激しく、数か月で注目される視点も変わります。いま我々は、トリアージしたアラートの多くを、まだ人が最終確認しています。それをどこまで AI だけで自動化できるかは、来年あたりに本格的に皆が取り組む課題になると考えています。
その背景には、今年から AI を使う攻撃者がかなり増えていることもあります。トリアージの精度を売りにする競合が多い中、人間の確認を経た後で、どこまで自動でブロックや設定変更を行い、人の介在を減らせるかが、第一の挑戦になると思います。
―― 今日はありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
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● 上野の 20 問の先に
取材の冒頭で「厳しめの質問をしてもよいか」と上野は確認した。そして、判断の根拠の検証や、誤判定の責任など、答えにくい質問が延々と続いた訳だが、Shang Li 氏は、できることはできる、できないことはできないと、一貫して率直な姿勢で回答した。答えにくい質問に正面から向き合えるかどうかは、技術力を映す指標のひとつかもしれない。取材後に上野が一定の納得感を示したように見えたのは、そのためだろう。今回の 20 問を、別の AI SOC サービスやベンダーに投げたらどう答えるのか、記者はそれが気になった。





