工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン 8 「レピュテーション攻撃の罠」 第10回 「プレゼン資料」 | ScanNetSecurity
2024.05.01(水)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン 8 「レピュテーション攻撃の罠」 第10回 「プレゼン資料」

アマチュアによる Twitter 投稿等の炎上対応に四苦八苦しているのが現状の日本企業が、もし IRA(ロシアのネット世論操作組織)のような洗練された本格的方法で、計画的組織的に攻撃を受けた場合、どのような対処が可能なのでしょうか。

特集 フィクション
 企業で発生するさまざまなセキュリティ事故を秘密裏に闇に葬るセキュリティコンサルタントの活躍をハードボイルドに描く「工藤伸治のセキュリティ事件簿シリーズ」のシーズン 8 「レピュテーション攻撃の罠」を毎週金曜日配信しています。

 今回の工藤の相手は、専用クラウドサービスを用いて、100 件に届く Twitter アカウントを高度に組織化して活用し、依頼企業の事実無根(だが最高におもしろい)誹謗中傷を長期間にわたって効果的かつ徹底的に行う「レピュテーション攻撃」の使い手です。たとえば、100 件のうち 83 件のTwitter アカウントを運営に依頼して停止すると、翌日にはきちんと 83 件の新たなアカウントが追加され総数 100 に戻って誹謗中傷を粛々と継続する強者ぶりを、敵は見せつけます。

 ロシアの米国への選挙干渉などでその存在や手法・実態・技術が知られるようになったレピュテーション攻撃や SNS 操作産業ですが、そうした攻撃が「もし日本の一般企業に向けて行われたらどうなるのか?」という仮定が本作を生みました。小説を用いた一種の仮想演習としてもお読みいただくことが可能です。

 たかだか馬鹿なアルバイトの悪ふざけや天然のイタズラを「バイトテロ」などと呼ぶ子供じみた危機意識の日本企業が、もし IRA(ロシアのネット世論操作企業で、有名なアイルランドの武装組織とはまったく別物)のような洗練されたプロフェッショナル手法で、計画的組織的に攻撃を受けた場合、どのような対処が可能なのか。事業継続やコンプライアンス、経営企画などに所属するビジネスパーソンにも有益な内容です。


工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン 8 レピュテーション攻撃の罠

前回

「犯人のアカウントはこれですね」

 表によれば犯人はこれまでに三回アカウントを変えている。おそらく橘たちが運営側に通報してアカウントを停止してもらったのだろう。

「運営側に通報して停止してもらう方法もありますけど、いくらでもアカウントは作れるので根本的な解決にはならないでしょう。でもそれしか方法がないので、被害にあった人は犯人があきらめるまで根気よく通報を続けるしかないみたいです。このツールは売り物じゃないんですけど、サポート費用をもらえれば貸し出せます。これがあればかなり効率的にアカウントをつぶせるでしょう」

「なるほどな。ところで、そのプレゼンシートくれる? クライアントに説明するのに便利だ」

「いいですけど自分が作ったことにしないでくださいよ」

「お前のことは向こうに専門家だと伝えてあるから、むしろそのままの方が信憑性があっていい」

「専門家! 工藤さんもたまにはいいこと言うじゃないですか。その調子で人生を矯正した方がいいですよ」

「よけいなお世話だ」

「前から思ってましたけど、女性のことを“お前”って呼ぶのは嫌われますよ」

「はいはい」

「はい、は一回」

 オレはそれから麻紀子から詳細な分析結果を見せてもらい、さらにいくつか追加で分析してもらった。おかげでかなりのことがわかった。

つづく
《一田 和樹》

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