
前回
オレたち三人は犯人のマンションを出ると、並んで駅まで歩いた。今回は勉強も兼ねて橘に表に立って対応してもらった。最初は渋っていたが、やってみると中々堂に入っている。本人も満足そうだ。短い期間でだいぶ成長した。
「しかし、システム担当ってここまでやるものなんですね。まさか家庭訪問することになるとは思いませんでした」
さわやかな口調で橘がもらす。
「最初の仕事がこれじゃ驚くのも無理はなない。ユーザー企業のシステム担当なんて社内と出入りシステム屋の調整がメインになったりするもんだ。どんな企業でも間接部門は扱いがよくないもんさ。技術的なスキルを磨くつもりでいたら、相当意識してやらないと無理だ」
オレがアドバイスすると橘は、「そうなんですか?」と言いながらうなずいた。しばらく三人で黙って歩く。
「すごくきれいな女の子でしたね。ちょっと冷たい感じがしましたけど、ツンデレって言うんですかね」
麻紀子がひとりでうなずきながらつぶやいた。確かに人形のように整った顔の子だった。オレが言うのもなんだが、あれだけきれいな子は滅多にいない。最近流行の適度に田舎くさいアイドルじゃなく、上品なお姫様みたいな顔だった。あの顔を向けられると威圧感を覚える。
「ツンデレなんて最近言う人あまりいないですけど、おっしゃることはよくわかります。プリンセスって感じでしたね」
橘がためらいがちにそう言って笑う。
「金持ちの家で育ったきれいな女がサイバーセキュリティの仕事をするなんて昔は想像もできなかったな」
オレがつぶやくと今度は麻紀子が笑った。
「あたしよりも頭の古い人がいて安心しました。あの子が大人になってもサイバーセキュリティにたずさわっていたらおもしろいことになるかもしれませんね。男性の親衛隊とかできそう」
麻紀子の言葉にオレと橘はうなずいた。
「それにしても、さすがです。パイラセキュリティから紹介された時は、見捨てられたかと思いましたけど、ほんと最後まで諦めなければなんとかなるものですね。いい勉強になりました」
微妙な表現だが、悪意はないらしい。笑顔でオレを見ている。
「基本に忠実にやっただけだ。丹念に事実を何度も見直して写真がなんとなく不自然なことに気がついたんだ。そこからは簡単だった」
「でももし犯人が子供でなかったら、どうなったんでしょう?」
「その時はその時さ。なんとかする。いつでも相談してくれ」
「わかりました。今後ともよろしくお願いいたします」
橘は頭を下げ、横を歩いていた麻紀子は小さな声で、「ほんと工藤さんは外面がいいですよね」とつぶやいた。
了