前回の連載は人工知能の父とも呼ばれるアラン・チューリングについて語った。チューリングが生物の深淵を探求する上で必要とした人工知能は、今や我々の生活に必要不可欠のものとなった。人工知能研究の勢いは生活の利便性向上といった単純な目的を超えて、人間の本質の探求や、人間の知能を完全に超える可能までをその射程に入れる。そこで今回は、近年の人工知能研究をリードする日本人研究者に着目し、社会をハックする可能性に言及したい。●人工知能の歴史ごく簡単に人工知能の歴史を振り返る。人工知能は人間知能を理解するという目的を持ち、1956年に計算機科学者で認知科学者のジョン・マッカーシー(1927-2011)によって命名された。幾度かの人工知能ブームの中で、80年代に哲学者のジョン・サール(1932~)から、人工知能は人間を理解しないとの批判は、人工知能の本質を振り返る意味で重要だ。人は自分の父親一人を認識するにせよ、人間であるとか男であるとか、その他年齢や職業、顔の特徴など数多くの認識フレームを無意識に利用することで個体を識別する。複雑なフレームを一瞬で理解する作業は人工知能にできないことを「中国語の部屋」という例え話(中国語ができない人にマニュアルに沿って文字を確認させ、決められた返答を入力することで成立する会話は、中国語を理解したことにはならないという議論)を引き合いにサールは述べる。しかし、2006年にディープ・ラーニング(深層学習)」という技術の誕生がブレークスルーを引き起こす。人間の神経回路を模したコンピュータ・ネットワークを用いて、人工知能が自ら多くのフレームを自動学習し、人間と同様の複雑な「概念」を獲得可能にしたことで、人工知能研究がにわかに注目された…※本記事は有料版メールマガジンに全文を掲載しました