工藤伸治のセキュリティ事件簿 第24回「公証人役場」 | ScanNetSecurity
2024.04.20(土)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 第24回「公証人役場」

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オレは葛城か川口に、紙を巻く役割をやらせたかったが、二人ともやりたくなさそうで言を左右して頑なに拒否した。結局、遠山から紙を巻くのはオレの仕事になった。システム屋の連中は、こういう手を汚す詰めをやりたがらない。

オレはなじみの行政書士に公正証書を作ってもらった。この証書を遠山と一緒に公証人役場に持っていき、内容確認、押印、保管してもらえばいいのだ。

翌々日、オレと遠山は、渋谷の駅に近い明治通り沿いのドトールで待ち合わせた。オレが十分前に着くと、遠山はすでに来ていた。いつもより化粧が濃い。

「見逃してもらえませんか? 工藤さんだって、ここで公正証書を取らなくても、別に仕事に支障ないでしょう?」

オレが座ると、すぐに遠山はバカなことを言い出した。

「私、公正証書に縛られることになるんですよ。ずっとです。そんなの耐えられません。お願いです」

オレは黙って聞いていた。こういう時に言うことは、みんな同じだ。

「私、なんでもします。工藤さんの言うことをききますから…」

充血した目でオレを見る。今日の化粧が濃いのはそのためか…オレは少しだけ遠山が哀れになった。

「でないと私、工藤さんのことを恨むかもしれません」

完全な逆恨みだ。止めてくれ。でも、もっと露骨な脅しをしてくるヤツよりはマシだな。だいたい、恨むかもしれません、なんてぬるい言葉で怖がるヤツなんかいないし、嫌われたくないと思わせるほどかわいくはない。きっとこいつもかわいそうなヤツなんだよな。ろくな男とつきあったこともないに違いない。などとどうでもいいことを考えていると、携帯電話が鳴った。公証人役場からだ。

「工藤さんですか? ご予約の時間よりも早く先生が空きましたので、よろしければどうぞおいでください」

ラッキー、早くなった。オレは、遠山に、

「行っていいそうだ」

と言うと立ち上がった。遠山は座ったまま立とうとしない。

「私が逃げたら、どうなるんですか?」

遠山は床をじっと見つめたままつぶやいた。

>>つづき
《一田 和樹》

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