世界はこれまで国家(State)が中心的なアクターとなることで動いてきた。今でも多くのことは国家を単位に語られることが多い。しかし近年それ以外のアクター = 非国家アクター(Non State Actor)の重要性が増してきた。もっとも注目されている非国家アクターはいわゆる GAFAM などのビッグテックで、それ以外にも数多くの非国家アクターがいる。本連載では、こうしたまだ知られていない非国家アクターを取り上げてご紹介してゆきたい。
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巷で騒がれているように中露イランは欧米を中心とした民主主義国に対して、せっせと認知戦とデジタル影響工作にいそしんでいる。これに対して民主主義勢もまた認知戦やデジタル影響工作でやり返すことはできるものの、中露イランほど手段を選ばず規約違反や違法行為をおおっぴらには行いにくく、特にメディアを駆使することはできないという非対称な関係にある。そのため常に不利な立場に立たされている。
だがわずかだが、民主主義国にも有利なこともある。そのひとつが国際世論だ。国際世論はアメリカと EU に寡占されている。正確に言うと国際世論のアジェンダセッティングの役割をアメリカと EU が握っている。日本は特にその影響が顕著だ。
●そもそも「国際世論」とはなにか?
日本で「国際世論」と言うとき、それはアメリカのメディア、著名人、専門家などによって提示されたものであることがほとんどだ。たまに EU 加盟国発のこともあるくらいだ。しかし、よく考えるとこれはおかしい。なぜなら、アメリカと EU の全人口と国の数を合わせても、それ「以外」の方が世界では圧倒的に多いからだ。
だがこの優位はなかなかゆるがない。そのため、中露イランはそこをうまく避けて影響工作を行ってきた。
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いま中露イランは、アメリカと EU が長く独占してきた国際世論のアジェンダセッティングの力をなんとかして手に入れようとしている。中国はアメリカのメディアに記事広告を出稿したり、広告とはわかりにくい形の別刷りを新聞にはさんだりしており、アメリカのメディアを借りて発信して国際世論を動かそうと邁進している。