1968年に作家のクラークが発表した小説「2001年宇宙の旅」と、同年公開されたキューブリック監督による映画化作品の成功は、その後の人類の宇宙開発に少なからぬ影響を与えました。
空想科学小説(SF)という文学ジャンルの持つ力を借りて、新しい価値観や目標、今までになかった製品やサービスを考える手法は「SFプロトタイピング」と呼ばれており、Intel社の研究機関の未来学者によって提唱され、近年日本でも注目が集まっています。
SFプロトタイピングは、飛躍や自由な発想が積極的に許容され、その点が、既知のデータをもとにしたシミュレーションや未来予測とは異なっています。
未知の要素を最大限考慮に入れながら将来やってくる未来を思い描く。これを「将来やってくる未来」ではなく「将来やってくる脅威」に置き換えれば、それはセキュリティ担当者なら多かれ少なかれみんながやっていることではないのか。
そんな認識のもとで、2021年夏、1名の作家を含む識者3名が集まり、サイバーセキュリティ領域でのSFプロトタイピングの利活用の可能性について考える勉強会を開催しました。3名の講演とディスカッションで構成され、ディスカッションのテーマに設定したのは、サイバー攻撃の非対称性を無効化する兵器を構想すること。
登壇したのは、著書「SFプロトタイピング: SFからイノベーションを生み出す新戦略」を早川書房から出版(共著)したばかりの、筑波大学の大澤 博隆 先生、そして、SFプロトタイピングを活用した企業コンサルティングの実績を持つアノン株式会社の森 竜太郎 社長。そして、サイバーミステリー作家の一田 和樹 氏の3名です。(註:所属及肩書は当時)
昨2021年をはるかに超えて不確定要素が増す現在、3名の講演とそれに続くディスカッションを、勉強会の講演再録として連載でお届けします。第9回は作家・評論家の一田和樹氏のパートの3回目です。
--
私の個人的な考えになるんですが、「人間っていうのは物語にすがって生きていて、社会は物語に依存している」という風に考えています。物語にはルールがあるが、そのルールの全貌や理由を知ることは人間には不可能である。統計的現実と体感的現実というのがありまして、ネットや情報量の拡大により、その乖離が大きくなっているのが現在だと感じています。
統計的現実と体感的現実は何かと言うと、統計的現実というのは数字の上で把握できる、統計的な数字に裏打ちされた現実です。体感現実というものは、人間が感覚的に感じるもの。