工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン 8 「レピュテーション攻撃の罠」 第6回 「山崎麻紀子」 | ScanNetSecurity
2021.09.17(金)

工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン 8 「レピュテーション攻撃の罠」 第6回 「山崎麻紀子」

アマチュアによる Twitter 投稿等の炎上対応に四苦八苦しているのが現状の日本企業が、もし IRA(ロシアのネット世論操作組織)のような洗練された本格的方法で、計画的組織的に攻撃を受けた場合、どのような対処が可能なのでしょうか。

特集 フィクション
 企業で発生するさまざまなセキュリティ事故を秘密裏に闇に葬るセキュリティコンサルタントの活躍をハードボイルドに描く「工藤伸治のセキュリティ事件簿シリーズ」のシーズン 8 「レピュテーション攻撃の罠」を毎週金曜日配信しています。

 今回の工藤の相手は、専用クラウドサービスを用いて、100 件に届く Twitter アカウントを高度に組織化して活用し、依頼企業の事実無根の誹謗中傷を長期間にわたって効果的かつ徹底的に行う「レピュテーション攻撃」の使い手です。たとえば、100 件のうち 83 件のTwitter アカウントを運営に依頼して停止すると、翌日にはきちんと 83 件の新たなアカウントが追加され総数 100 に戻って誹謗中傷を粛々と継続する強者ぶりを、敵は見せつけます。

 ロシアの米国への選挙干渉などでその存在や手法・実態・技術が知られるようになったレピュテーション攻撃や SNS 操作産業ですが、そうした攻撃が「もし日本の一般企業に向けて行われたらどうなるのか?」という仮定が本作を生みました。小説を用いた一種の仮想演習としてもお読みいただくことが可能です。

 たかだか馬鹿なアルバイトの悪ふざけや天然のイタズラを「バイトテロ」などと呼ぶ子供じみた危機意識の日本企業が、もし IRA(ロシアのネット世論操作企業で、有名なアイルランドの武装組織とはまったく別物)のような洗練されたプロフェッショナル手法で、計画的組織的に攻撃を受けた場合、どのような対処が可能なのか。事業継続やコンプライアンス、経営企画などに所属するビジネスパーソンにも有益な内容です。


工藤伸治のセキュリティ事件簿 シーズン 8 レピュテーション攻撃の罠

前回

 バズーカノベルティを出たオレは、嬉々としている沢田に見積もりのアドバイスをした後で別れて、池袋に向かった。移動しながらメッセージを送ると今日は忙しくないからどうぞ、とすぐに返事が来た。

 東京池袋にある立林大学社会学部南方研究室にはSNS世論操作を専門に研究しているヤツがいる。博士課程の山崎麻紀子(やまざき まきこ)という天然の女だ。過去の仕事で何度か協力してもらったことがある。

 西池袋にある立林大学の緑豊かなキャンパスを抜けると、昔ながらの木造の社会学部研究室棟がある。ここだけ大正時代のままのような錯覚に陥る。中に入り、ぎしぎし鳴る階段を昇った二階に目指す南方研究室はあった。

 ドアをノックすると、すぐに開き、山崎麻紀子が顔を出した。かすかにさわやかな柑橘系の香りがした。

「どうぞ、お待ちしていました」

 肩まである茶髪とよく動く瞳。小動物みたいだ、とこいつを見るたびに思う。

「南方先生は?」

「今日は来ないんです」

 オレはずかずかと研究室に入り、応接セットのソファに腰掛けた。壁一面の本棚から古書店の香りがする。

「へー」

 麻紀子は気のない返事をしながら珈琲を持ってきてくれた。

「電話もらってから基本的なことは調べておきました」

「助かる」

 今日はよっぽどヒマだったんだなと思いながらも礼を言う。

 麻紀子は自分の分の珈琲を持つとオレの向かいに腰掛け、形のいい脚を組んでじっとこちらを見た。

「ええと、それでですね。お手伝いするのはいいんですけど、ツールそのもののことはあたしも理系じゃないからあまりくわしくないんですよね」

 「話が違うぞ」

「いやいや、使い方はわかってますから大丈夫です。でも技術的な説明は無理です」

「それで充分だ。オレもあまり知らないんだ」

「じゃあ、工藤さんのために基本的な仕組みから説明しますね」

つづく
《一田 和樹》

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