>> #NoMoreFake 第6回「長期的武器」
「それを変えていくのは結構かかりそうですね」
うなずく畠山さん。やっぱりすぐに変えていくのは難しいのか。でも、またここで停滞していたら変わるものも何も変わらなくなってしまう。
「…今が一番若いとき、です」
『今が一番若いとき』というのは、以前村田社長がインタビューの記事で答えていた座右の銘だった。
村田社長に会うことになって、必死に調べたときに出会った文章で、『何をするのも今以上に若いときはない』という自分の背中を押す言葉だそうで、強烈なインパクトがあった。
いきなりつぶやいた私に、畠山さんも村田社長も驚いたが、お互い目を合わせ、ふっと微笑む。
「私、今まで関心がなかったんです。文章力のある記事は読むし面白ければ拡散するし。でもそれが事実かどうかなんて考えたこともなくて…。でもおふくろさん食堂の件でフェイクニュースの被害を目の当たりにして、やっとおかしいって気づいたんです。その時、村田社長の記事を見て、何か行動する一息ってすごく大切だなって思いました」
ちゃんと想いが伝わるのかはわからなかったが、必死に伝える私の言葉に耳を傾けてくれる村田社長は少し考えるように遠くを見た後ゆっくり話し出した。
「ありがとう。僕も昔は少しでも良い世の中に、なんて正義感出して張り切ってたけど、今は誰もが自由に発言できるようになった分、匿名で個人を攻撃する人も増えていって。何か発言するたびに世間からバッシングされるようになって一度全部やめちゃったんですよ。何をするのも批判はつきもので。きっとあなたみたいに応援してくれる声もあったのにそれも耳に入らないくらい心が病んでいって、なんのために誰のためにやっているのかわからなくなってしまいました。…でも、あきらめたらそこで終わりなんですよね」
村田社長の言葉に深くうなずく畠山さん。
「ぜひ、ご協力いただけたら嬉しいです。全力で頑張ります」
相手のことをちゃんと知って、理解したうえで言葉を交わしつながっていく。ゆっくりでもその信頼が着実につながっていく気がする。
家に帰ると、ワイドショーでもフェイクニュースの特集をしていた。中年の小太りの男性が、昼間から銀座の高級店でお寿司を食べながらインタビューに答えていた。
「いや、フェイクニュース万歳ですよね。みんなが勝手に拡散して、楽しんでくれるんだからこれも需要なわけで。自分は作成してますけど、結局面白がって広めるのはみんななわけで」
以前は気にも留めないようなニュースだったが、今はお寿司を頬張りながら下品に笑う男性を見て不快を覚える。
「まぁ、結局嘘がばれて広告が停止されてもドメインを売っちゃえばいいわけで。必死に稼ごうとして僕も努力はしてるんで、そういう仕組みが成り立ってる以上文句を言われてもしょうがないですよね。その仕組みがあるからただ使ってるだけですし、知らないから使ってないだけでしょ?それに、ネットだけじゃなくてテレビだって実際嘘ばっかりじゃないですか」
お寿司屋さんを出た男はこれから高級クラブに行くという。こういう人たちが経済を回しているのだという声もある。お金を使う人がいるから経済が潤うのだと。弱肉強食なんだと。でも人を傷つけて、陥れて、そのお金で豪遊することが社会の仕組みだというなら、その仕組みが間違えてるのだと思う。何が正しいのかなんてないのだろうけれど。
テレビを消し、メールをチェックすると、畠山さんからのメールがきていた。今日会った村田社長から了承を得たとのことで、ついに動き出せそうだとのことだ。
村田社長の会社、アフィットは日本でも大手のアフィリエイトサイトだ。その村田社長の協力が得られるということは急上昇したサイトがすぐに判明でき、フェイクニュースを流しているサイトを特定しやすくなる。これに拡散されるような仕組みを繋げられればもっと判明しやすくなると畠山さんは喜んでいた。メールには最期の私の一押しに感謝と書かれていた。
最期の一押しをするのはコールセンターのバイトでも習得してきた。迷っているお客さんに、ちゃんとしっかり握手をするように最後の一押しをする。不安なお客さんを安心させる分、その期待に応える責任感も生まれてくる。大小関わらず、人に何かを伝えるのは本来ならちゃんと責任を伴うものだ。だからこそ自分が立ってないと発言することなんてできない。結局は自分がどう生きてきたかも大切なんだろうな。今後のことに不安半分期待半分の思いを寄せながら畠山さんに返信し寝床についた。
次の日、朝からSNSは#NO MORE FAKEのタグがトレンド入りしていた。
>> #NoMoreFake 第8回「SNS もうひとつの用途」
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