「超限戦」時代、軍事大国アメリカの迷走 - 書評「大統領失踪」 | ScanNetSecurity
2024.03.19(火)

「超限戦」時代、軍事大国アメリカの迷走 - 書評「大統領失踪」

アメリカは世界有数のサイバー攻撃に弱い国家だ。

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 この物語は第 42 代アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンと、ベストセラー作家ジェイムズ・パタースンの合作によるサイバー冒険小説である。

 主人公であるアメリカ大統領ジョナサン・ダンカンは合衆国に対して大規模かつ致命的なサイバー攻撃が行われることを知る。アメリカ全土のインフラを破壊しかねない未曾有のサイバー攻撃だ。もし、その攻撃が実行されたら社会が機能不全に陥る。だが、防ぐ方法は存在する。

 その鍵を握る謎のハッカーが情報を提供する条件として出したのは大統領と二人きりでの面談。

 しかし、アメリカ大統領が単独でテロリスト(かもしれない)ハッカーと会うことなど考えられない。攻撃は迫っているから猶予はない。しかも弾劾につながりかねない下院特別調査委員会への出席も迫っている。もっとも慎重にならなければいけない時だ。ダンカンはあえて危険を冒し、失踪を装って単独でハッカーとの接触を試みる。

 おそらく日本での本書の受け止められ方とアメリカのそれはだいぶ違うだろう。なぜなら、ビル・クリントンは歴代のアメリカの大統領の中でも特に人気者なのだ。そしてこれはおそらく元大統領が書いた初めてのエンターテインメント小説で、主な舞台となるのはホワイトハウスだ。とりあえず読んでみたくなるアメリカ人は多いだろう。事情の違う日本でどのようにこの小説が受け止められるか興味深い。

 本書のテーマとなっているサイバー攻撃には IoT を始めとして最近の話題を取り込んでおり、それが物語の緊迫感を醸し出している。現代は文化、経済あらゆるものを兵器化して戦うハイブリッド戦の時代に突入していると言われている。2014 年のロシア新軍事ドクトリンではっきりと示された。1999 年に中国で発表された「超限戦」にはもうひとつ重要な概念が提示されている。それはあらゆるレベルでの戦争が行われるようになるということだ。従来の国家対国家だけではなく、国家対テロリスト、国家対企業といった違うレベルでの戦争だ。

 その予言を証明するかのように国際的なテロ組織がアメリカで 9.11 同時多発テロ事件を起こし、アメリカはテロとの戦争を激化させる。実は「超限戦」では国際的テロ組織によるアメリカへの大規模テロの可能性に触れており、それが実現した形になり、一時話題となった。本書に登場するテロリスト集団もアメリカをターゲットとして新しい戦争を仕掛けているのだ。

 そして本書に書かれているようにアメリカは世界有数のサイバー攻撃に弱い国家だ。

《一田和樹( Kazuki Ichida )》

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