「その違いは大きいだろうね。日本人は、人を信じる傾向が強くて親切だから。でも、だからこそ狙われやすいとも言える。 たとえば日本が津波に襲われたあと、その災難につけこんで、金を盗もうとする悪い連中がいた。人を信じやすい親切な人々が、そんな連中に金や ID を渡してしまうのは恐ろしいことだ。 それでも日本の文化的な背景を考えると、批判を受けるかもしれない。どうすればいいのか……これは難しい問題だな……結局は『教育』だけが、物事を改善する方法なのだけれど……。この点についてはアズジェントともよく議題にあがっているんだ」
「たぶん日本と同じ反応ではないよね。でも、ここでも一部には批判がある。なにしろ子供向けの競技もあるから(後述の「SECTF for KIDS」参照)。 鍵のピッキング法なんて、『なぜ、そんな悪いことを子供に教えるのだ』と思う人はいるだろう。だから僕らは伝えているんだ。 人々が批判的思考を持つことは、とても大事だ。そして教育がなければ批判的な考え方をすることはできない。その教育のためには、こういうイベントが最も効果的だと僕は思っている。 たとえば料理の本をどれだけ読んでも、一度も台所で料理した経験がなければ、実際に料理ができるようにはならない。理論を知るだけではなく、実際に経験してエクササイズとして学ぶのが最高の方法だ、と僕は考えている」
──SECTF for Kids(子供のための SECTF)を始めたきっかけは?
「4 年前、DEF CON がキッズイベントを企画したんだ。ハッキングやプログラミング、コンピュータの修復、そういったことを子供に教えるイベントで(編集部註:大人と一緒に参加しなければならない)。 そのとき『子供向けのソーシャルエンジニアリングをやりたいか?』と尋ねられた。だから僕らは宝探しのゲームを企画した。DEF CON 会場を歩き回って、それぞれ違うものを探し出すんだ。子供はそういうことが大好きだろ? そして 4 年後の今でも、僕らは DEF CON のオフィシャルイベントとして SECTF for Kids を開催している。 僕は、子供に『批判的思考』を教えることが、非常に重要だと感じているんだ。なぜなら米国では子供に対して、あまり批判的思考のスキルを与えようとしないから。 既存の発想に囚われずに考えること。問題と向き合い、解決法を自分で見出すこと。それはコンピュータで計算するのではなく、脳と手を使って学ばなければならない。 このイベントはとてもうまく行っているよ。子供たちは全くコンピュータを使わずに、様々なスキルを楽しみながら学んでいる。子供たちと一緒に来ている親の一部は、ずっと昔から DEF CON に来ていて、家庭を持って、子供を連れてくる人々だ。でも一部の親は、ただ子供を連れてくるためだけに来ている」