>>第 1 回から読む── しかし仕組み上、依頼者をつきとめる方法はなさそうだよなあ。工藤は、とりあえず真田と近くの喫茶店に入って話しながら考えた。「あのさ。やっぱり無理だと思うんだけどな」「え? 工藤さんがそんなこと言うなんて、どうしちゃったんですか! できるに決まっているじゃないですか。一休さんみたいにとんちをきかせて解決してくださいよ」「一休さん……いつの時代の話をしてるんだ。じゃあいいよ、お前が犯人を屏風から追い出してくれたら、オレがつかまえてやるよ」「うひゃうひゃうひゃ、その調子です」── こいつ、全然わかってねえ。工藤は思ったが、いくら言っても無駄なので止めた。乗り気はしないが、クライアントに説明して無理だということを理解してもらうしかない。とりあえず引き受けて、人日を稼いで「やっぱりできませんでした」と言ってもいいのだが、工藤伸治の美学が許さない。「それより、お前、ノートパソコン持ってきてる?」工藤はふとあることを思い出した。「え? はい。持って来てますけど」真田は怪訝な表情を浮かべながらも、傍らのバッグからノートパソコンを取り出した。「オレが、チェックするって言ったの覚えてるか? 最近はボットネットとかスパイウエアとかあるから、念のために見てやろうってんだ」「アンチウイルスソフト入れてますよ。工藤さんお薦めのESET」「それでも見つからないのがあるんだよ。調べてやるよ」工藤はそう言うと、真田のノートパソコンを起動させる。「アンチウイルスで見つけられないのに、どうやって調べるんです?」「レジストリの内容や動いてるアプリでおかしなのがないかチェックすると、勝手に変な通信していないかをチェックするのさ、手動でね」「なにを言ってるのかわかりませんが、ようするに自動だとすり抜けられちゃうけど、くわしい人が直接手動で調べればわかるってことですね」「……そうなんだけど、単にオレの言ったことをそのまま言い換えてるだけじゃん」「言い換えられるというのは、理解してるって事ですよ」真田は笑い、工藤は渋い顔をした。>> つづき