オープンガバメントの哲学と脆弱性への対応策、一田氏論考へ寄せて 後編 | ScanNetSecurity[国内最大級のサイバーセキュリティ専門ポータルサイト]
2017.11.24(金)

オープンガバメントの哲学と脆弱性への対応策、一田氏論考へ寄せて 後編

特集 コラム

9月11日、18日にScanNetSecurityに掲載された、「オープンガバメントに潜む三つの脆弱性」一田和樹氏の論考はオープンガバメントと呼ばれる、一連の改革の中で、インターネット投票に焦点をあて、その問題点(脆弱性)について論じている。氏が挙げた「三つの脆弱性」は、政治におけるインターネットの利用が今後も一層拡大し深化することが不可避である以上、避けて通れない重要な問題提起である。

3.不正や妨害工作が増える?

一田氏は、ネット投票では、成りすまし、DDos攻撃など、様々な不正や妨害が行われる可能性を指摘しているわけであるが、まさにその通りである。ネットを使うことで、不正や妨害工作の「敷居」は低くなったといえるだろう。それは、ネット投票だけでなく、ネット選挙運動もそうであるし、アノニマスの一連の活動からわかるように、政府の政策決定・実施自体にも当てはまることである。オープンガバメントによって、政府の情報が一層公開され、かつネットを通じた市民参画が拡大するという事は、潜在的には、そうした「不正や妨害工作」の参画も同時に促してしまうのかもしれない。ただこれは、オープンガバメントが進もうが進むまいが、全く関係なく起こりうる事態である。今さら全ての業務をコンピューターから切り離すことが不可能である以上、政府の情報公開・利用とセキュリティは、切り離して考えるべきではないだろうか。オープンガバメントの哲学で述べたように、政府が公(おおやけ)を担いきれなくなっている以上、やはり情報公開を進めつつ、不正や妨害工作そのものに焦点をあてて、それを防ぐ、あるいは処罰するという方針こそ必要であるように思える。

こう述べると普通の結論のように、思われるかもしれないが、残念な事に日本では「臭いものにフタ」とばかりに、ネットに後ろ向きになりがちといえるかもしれない。そのことがかえって問題を作り出している。

その象徴的な事例がネット選挙運動の禁止である。現在、選挙期間中のインターネット利用は先進国に類を見ないほどの厳しい制限をしているが、利用そのものを制限し、利用自体「無い事」にしてしまっているので、法的責任・処罰などを定めることができず、かえって不正や妨害工作が事実上「野放し」になってしまっているのである。

4.「場当たり的な」ネット世論?

プロパガンダの研究によれば、より短く、情緒的で感情に訴えるメッセージが有効であることは、以前から指摘されていたが、そう考えると、まさしく、ツィッターなどは、それにふさわしい道具に思える。しかも一田氏の指摘するように、様々な情報が氾濫する中で情報を自ら取捨選択するよりも、信頼できる人に任せてしまう傾向も十分考えられるだろう。

しかし、ここで小泉政権下の「郵政選挙」で、散々「ワンフレーズ・ポリティクス」の弊害が言われたことも想起すべきだろう。すなわち、ネットにかかわらず、世論というものは得てして「場当たり的」であり、ネットを制限したところで(しかも現実的でないが)、それはあまり変わりがないのではないだろうか。

ではどうすべきか?ここでもやはり、「ネット」を問題視し制限するのではなく、「場当たり的な政治」そのものに焦点を当てて、その対応策を考えるべきだろう。私はその対応策としては、「熟議の政治」を挙げたい。この点に関しては、次項のポイントと重なるので、合わせて論じたい。

5.「民意」を測定する方法がない。

一田氏は、従来の選挙であっても、測定方法によっては、「民意」は歪むことがある、さらにネットを通じて、直接的に「民意」が政治に流入することは、これを正確に測る方法がない以上、混乱をもたらすのではないかと警鐘を鳴らす。これもまた、その通りである。もう一歩進めると、仮にネットを通じた「民意」を正確に測定する方法があったとしても、実は意味がないと言えるかもしれない。それは、そうした民意なるものが、一過性で、実に移ろいやすい偏った意見であることが多いからだ。このことは従来の世論調査でも良く指摘されていることである。設問の仕方で、回答の傾向は大きく異なってくる。そして、十分な情報を与えると回答が異なってくることも実証されている(いかに人々の意見が偏見に満ちたものか、変わりやすいものであるかについては、ジェイムズ・フィッシュキン「人々の声が響き合うとき」にくわしい)。

この点でも、「熟議の政治」は有効であるように思われる。熟議が重要なのは、「世論」が場当たり的で偏った情報に基づいたものであるならば、逆に十分でバランスのとられた情報のもと、議論を通じて現れてくる「輿論」を作り出し、それに基づく政治を創造していく必要があるからである。例えば、近年注目されているのが、フィッシュキンらの提唱している「熟議型世論調査」である。そのくわしい手法については省略するが、延髄反射的な「民意」でなく、十分でバランスの取れた情報の元で、議論された「民意」を政治につなげる手法である。

以上、一田氏の論考へのコメントとして、多々述べてきたが、ここまで述べてきたことで、前述の結論「壁ではなく、整流器」の意味はもうお分かりいただけるのではないかと思う。つまり、ネットの利用自体を壁で覆い、フタをするような手法は有効ではなく、オープンガバメントという、情報公開・政治参画の潮流に棹差しつつ、問題そのものに焦点を当てて、対策を取る。そのことでガバナンスの改革につなげるべきだろう。つまりインターネットの政治利用のメリットと、一方でその過程で出て来る諸問題を抽出し切り分け、問題に対して処理する「整流器」のような仕組みこそが今、求められているのではないだろうか。

(谷本晴樹)

筆者略歴:財団法人尾崎行雄記念財団主任研究員、ICTを活用した地域活性化から自治体の情報化、民主主義の問題まで幅広く執筆、主な著書に「統治を創造する(共著、春秋社 2011年)」
《ScanNetSecurity》

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