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2017.12.13(水)

グローバル時代の企業防衛、特命・情報リスク調査分析チーム 第3回「武器にも凶器にもなる情報・データ」

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ビジネスのグローバル化の進展で、特許権や商標権等の知的財産や、企業機密の侵害など法的リスクが増加している。そこで重要なキーワードとなるのが、国境を越えた紛争において対応が求められる米国の「eディスカバリー(電子証拠開示)」の存在だ。

契約書、業務記録、メールのやり取りなど、さまざまなドキュメントを、いざ紛争が発生した際に証拠となりうる情報として、どのように管理していくかが課題となる。海外進出する企業の利益と情報や知的財産をいかに守るか。

4回にわたって専門家に話を聞き、その要諦を確認する連載第3回となる今回は、クロスボーダーの複数の管轄にまたがる訴訟や仲裁などの実績が豊富なオリック東京法律事務所の高取芳宏弁護士と、中国を含む特許訴訟などの知的財産紛争に詳しい矢倉信介弁護士に、訴訟や仲裁などの紛争にそなえた社内のルール作りやその運用・対策のポイントを聞いた。

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●刑事・行政手続きもクロスボーダー化

―ITの急速な進化に加え企業活動がクロスボーダー化する中、まず経営層はコンプライアンスなどの法的課題をどのように把握しておくべきでしょうか?

高取 企業活動がクロスボーダー化するというのは、子会社等のビジネス拠点が国境を超えることを意味するだけでなく、例えば製造業者の部品調達先や、販売先などを含めてグローバル化するということを意味します。それらの国や管轄で問題が生じ、足下をすくわれる可能性が常に存在しうることになります。

矢倉 従来より、とりわけ民事・商事の分野では、異なる国の当事者間の契約紛争をきっかけに、クロスボーダー(国境を越える)案件が発生しやすかったのですが、刑事や行政手続きは、国家権力の行使という性質を有することもあり、その管轄も国ごとに分断されるという傾向が強かったといえます。

しかし現在では、国をまたいで警察や検察さらには各行政機関が連携するようになってきています。例えば、企業間のカルテルの事案を見てみますと、日本の公正取引委員会、米国司法省そして欧州委員会が連携して、国境を超えて、カルテル当事者の訴追を行うという実務的運用が、もはや常態化しているといえるでしょう。

●中国等アジア地域での知財問題

―実際にどんな事例が出てきているのでしょうか?

高取 例えば、eディスカバリーを含めて、米国の訴訟手続について十分理解をしていなかったために、紛争状態が生じてから慌ててデータを削除してしまい、証拠隠滅とみなされるという、深刻な事態に陥るケース等もあります。この場合は、合理的かつ明確なポリシーを予め定めておいて、かつそれを適切に運用しており、かつ、紛争状態が生じた場合には、削除を停止するなどの措置を適切に取るなどの日常からの備えが重要です。

矢倉 米国では、いわゆるディスカバリーと呼ばれる証拠開示手続について、法律上も詳細な規定があるほか、長年にわたる判例法の確立により、何をすべきで何をすべきでないかという点についての指針となり得るものが存在します。これに対して、日本では、米国に比べて、証拠開示やそれをしないことの効果が不明確であるというのも、日本においてeディスカバリーをはじめとする証拠開示制度や手続への関心が十分持たれていない原因であると考えられます。

高取 いわゆる懲罰的賠償である巨額の賠償等の、純粋に国内だけにとどまるケースであれば問題となりにくいのですが、証拠やデータの管理については、国境を超えたクロボーダーの事案では、各管轄における裁判所による証拠やデータの取り扱い、証拠開示制度の有無や程度をしっかり理解し、戦略的に対応していくことが重要です。

私が担当した国内大手電器メーカーの商標権が中国・香港・台湾で出回った偽造品により侵害されたケースでは、このような、各管轄での証拠開示制度の違いや、証拠、データ等の管理について戦略的な対応が要求されました。この事案では、昨2011年3月24日に、日本の裁判所としてはじめて「外国で起きた知的財産権侵害について、外国法を適用することによって損害賠償を認定する、という画期的な成果を得ることができました。この判決自体は民事訴訟における成果ですが、これをさらに、各国での刑事訴訟に証拠として活用するなど、まさにクロスボーダーでの戦略が重要であったケースと言えます。

残念ながら特に中国などのアジア諸国では、知的財産についての権利意識が成熟していない部分があります。日本企業にとっても大きなマーケットである反面、知的財産などの侵害の宝庫になっており、抜本的対応を講じていく必要があります。

矢倉 ある製品が偽造品であることを立証するためには、関連国で知的財産権を押さえていなければなりません。例えば、商標権に関する問題で言えば、日本のとある大手メーカーがアジアにおけるマーケットの中心国で他社に自社ブランドの商標権を先に取得されていたという事実が発覚し、最終的にその登録商標の無効を勝ち取るまで進出が遅れたという例はよく知られています。競合企業に遅れを取らないためにも、知的財産権の早期の権利取得が肝要といえます。

また、これは私がとりわけクロスボーダーの案件を担当する際に常に直面する問題なのですが、各国の特許庁での権利取得の過程において、また、各国の裁判所での手続きにおいて、国ごとに対応や主張がバラバラだと、先方に突然論理矛盾を突かれることとなり、一気に形勢逆転という事態に陥る可能性があります。そこで、グローバルな観点から、権利取得に関する各国の法的要件を検討しつつ、権利化を行う対象国につき並行して権利取得を進めていくことが肝要です。

高取 海外進出を行う企業にとって起こりうるケースとして、現地雇用の従業員が顧客データやノウハウといった営業機密を、転職や独立起業の際に「手土産」として持ち出してしまう、というようなこともおきたりします。持ち出された後の対策はもちろん、日常的に予防策を講じておくことも重要です。例えば、社内で機密情報へのアクセスが容易であり、管理がずさんだったために簡単に情報やデータを持ち出せる状態にあった、と認められてしまうと、その後の関連紛争の中で不利に作用してしまい、非常に悪い条件が重なるともはや機密情報として扱われない、保護されない、というリスクもあり得ます。

●証拠という名の武器弾薬

―日頃からの備えが重要ということですね

高取 訴訟などの紛争には大きく分けて3つの段階があります。(1) まずは事前の「紛争予防」段階、(2) そして紛争が生じたときの「紛争解決手段の選択」段階、(3) 最後に、実際に「紛争解決を遂行する」段階が考えらえます。

紛争予防によって紛争が起きなければそれに越したことはない、というのは原則論としては正しく、潜在的な証拠をどのように管理・保管しておくか、ということはいずれにしろ重要です。しかし、場合によっては、より積極的に「こちらから紛争を仕掛ける」というような状況や選択肢もあり、特にこういう場合には日常からの備えが決定的に重要となります。

例えば、海外企業とのジョイントベンチャーを組んでいて、そのストラクチャーを変えたいけれども通常のビジネス的交渉では難しいという場面があったとします。そういった時に、戦略の一手段として、相手に関連の契約の違反があれば、紛争状態を敢えて惹起させ、交渉の武器にすることも可能です。企業にとってのビジネスチャンスやオプションが拡がるとも言えるでしょう。

―eディスカバリー対策をはじめとする通常業務の中での取り組みが、紛争の予防であるだけでなく、有事の際の武器にもなり得る、ということですね。

高取 その通りです。戦いに備え、証拠という名の武器を普段から適切に蓄えておくという感じですね。そして私たち弁護士とそのプロセスの法的効力を確認し合いながら、準備や遂行を進めておくことで、いざ訴訟となったときも、素早く、また正々堂々と実行に移すことができるのです。

●特命・情報リスク調査分析チームと弁護士の連携

―情報が防具にも武器にも、そして取り扱いを誤ると凶器にもなってしまうということがよく分かりました。連載最初のインタビューで、三井物産セキュアディレクションの大河内 調査研究部長が、グローバル化する企業に求められる新たな職能として、情報システム部門とは別個に、企業内に専門の調査分析チームを設立する必要性を訴えています。

高取 仮に、外部にそういった適切な組織があり、弁護士と密接に連携して機能していくということであれば、枠組みとして良いと感じます。但し、訴訟などの紛争状態になった場合には、不利にもなりうる微妙な情報に接する機会も多くなる可能性がありますから、私たちのような法律の専門家と連携してコミュニケーションをとることが大切になってくると思います。あるいは弁護士を最初からチームに加えておくというのも一つの方法だと思います。そのようなコミュニケーションを取ることにより、いわゆる弁護士依頼者守秘特権により、証拠開示されるリスクを軽減しながら情報の共有が可能になります。

情報リスク調査を社内の役務として行うのは、中立・公正を保つという意味でも難しいことが想定され、かつ自助努力を行っている、コンプライアンス実行の1つの証拠としても、そういった外部機能を駆使する試みは有意義と考えます。

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高取 芳宏 弁護士
弁護士(日本および米国ニューヨーク州)。第一東京弁護士会登録(1992年)、ハーバードロースクール法学修士取得(1998年)。主に、国境のまたがるクロスボーダーの知的財産事案、製造物責任事案、独禁法事案などの国際民事、商事訴訟、国際仲裁、コンプライアンス事案などを手がける。昨年は、大手電機メーカーの海外における知的財産侵害事案において、日本の裁判所が外国法を適用して損害賠償を認定する、という初の判断を勝ち取るなど、複数の管轄がまたがる紛争事案で多くの実績をあげる。「クライアントの最大利益を実現する和解戦略」(ビジネス法務2011年)、「企業が訴訟・仲裁に踏み出す時」(ビジネスロー・ジャーナル2009年)などの論文の他、国際紛争、知的財産、コンプライアンスに関する講演実績多数。4月17日、品川で開催されるセミナー「グローバル化時代の不正対策」で講演を行う


矢倉 信介 弁護士
弁護士(日本および米国ニューヨーク州)・弁理士(日本)。京都大学法学部法学士、ニューヨーク大学ロースクール法学修士(知的財産権法専攻)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス法学修士ならびに(国際ビジネス法専攻)北京大学法学院法学修士各取得。日本企業および外国企業をクライアントとして、主に知的財産権、独占禁止法、製造物責任、医事・薬事紛争、その他国内外の企業を代理しての民商事紛争解決を手がける。日本、米国、英国および中国で得た豊富な知識と経験を活かし、クロスボーダー型の訴訟・仲裁案件に積極的に取り組む。「不可抗力条項と企業の契約責任-日本法及びウイーン売買条約の観点から-」(JCAジャーナル2011年)などの著書の他、知的財産、偽造品対策および独占禁止法実務などの講演実績を持つ。4月17日、品川で開催されるセミナー「グローバル化時代の不正対策」で講演を行う
《ScanNetSecurity》

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