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OCCUPY運動決起の日とされる昨10月15日、バンクーバーダウンタウンのアートギャラリーには、おおよそ2,000人の人々が早朝から集まっていた。彼らはテントを張り、医療コーナーを作り、音楽を奏でて昼からの行進を待っていた。本稿ではその様子を、写真を交えてレポートしようと思う。
北米全体では1,000を超える都市で行動が起きたと言われている。カナダでは、トロント、モントリオール、バンクーバー、カルガリー、ハリファックスなど17をこえる都市でデモが行われた。当初カナダでは、トロントがもっとも大規模な運動が起こると予想されていたが、ふたを開けてみるとバンクーバーでの運動がもっとも大規模だったようにみえる。
これは「WE ARE 99%」の運動の提唱者と言われるカレ・ラーセンがバンクバー在住であり、彼の作る雑誌「アドバスターズ」の拠点もここにあることが影響しているかもしれない。
アドバスターズ(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/アドバスターズ
Adbusters
http://www.adbusters.org/
●5,000人を超える行進でバスト電車がストップ
午後1時から、まず今回の運動について参加者からの説明があり、それから行進が始まった。行進には多数の人々が参加したが、子供から老人までが参加する平和なものだった。中には、犬を連れた家族連れもいた。アノニマスのガイフォークスの仮面をつけた者もいたが、アノニマスのメンバーというわけではなさそうだった。人々は、「WE ARE 99%」を連呼して歩き続けた。
参加者は増え続け、5,000人を超えたようだ。行進の行列がダウンタウンの目抜き通りを占拠するほどの長さに達し、交通は完全に麻痺した。
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バスとスカイトレイン(電車)は止まり、行列が途切れないため交差点を自動車が通ることはできなくなった。
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トロントでは集まった人々は、テントを張り、徹夜で運動を続けるそうだ。その後、バンクーバーでは100人以上の参加者がそのままアートギャラリーにテントを張って泊まり込んだ。
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●アートギャラリーで行われる「直接民主主義」
翌16日も正午から集会が行われた。この日の集会は、前日のような行進主体ではなく、「自分たちの提言をまとめる」というものだった。同時期に開催されていた G20(20か国財務相・中央銀行総裁会議) に対するアンチテーゼという意味もあるのだろう。
壇上に上がった参加者(特にリーダーはいないので参加者がそれぞれの意志で行動している)は、これからのスケジュールと提言とりまとめの方法を説明した。昨日ほどではないにしろ、多数の参加者がいるため、いったん少人数のグループに分かれ、そこでディスカッションを行い、グループとしての結論をまとめる。
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その後、それを持ち寄って、アートギャラリーの前で発表し、全員でディスカッションするという流れになっていた。さながら古代ギリシャの直接民主主義である。
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集会は警察、消防、市の職員などの監視の下に行われていたが、終始なごやかな雰囲気で行われた。だが、秩序を守るための仕組みが自発的に構築されているようで、おかしなことを大声で口走る参加者が現れると止めに入る者がいた。ローマで、デモ隊が暴動と化し放火や投石が行われる騒ぎになったのとは対照的である。
●リーダーと中心の無い社会運動
この運動には、まだ抗議の声を上げるという以上のものがない。そして抗議も「格差是正」が共通のテーマにはなっているが、原発反対や自然保護など自分の訴えたいことを勝手に持ち寄っている。そのため、運動としての方向性が明確ではない。ただ抗議の声を上げるだけで、是正の具体的アクションに結びつかないまま終わる可能性もある。
我々の社会は、ロンドン暴動、OCCUPY運動、e-Punishment などの、リーダーと中心を持たない、クラウド型社会運動に対して有効な対処方法を持たない。そのことは、すでに明らかだ。この運動が、このまま散発的なお祭りで終わるのか、なんらかの具体的なビジョン、ゴールを持つようになるかによって、これからの社会は大きく変わることになるだろう。
(一田和樹)
筆者略歴:作家、カナダ在住、2012年1月に講談社ノベルスから「キリストゲーム(仮題)」刊行予定