AeyeScan blog 第15回 なぜ米国サイバーセキュリティ株は V 字回復したのか? | ScanNetSecurity
2026.09.01(火)

AeyeScan blog 第15回 なぜ米国サイバーセキュリティ株は V 字回復したのか?

 AI が得意な領域・人間よりも高いパフォーマンスを発揮できる「確率論的セキュリティ対策」は AI に任せ、AI とロジックを上手く融合させる「決定論的セキュリティ対策」は人間がケツをもつことで「ととのう、セキュリティ」を実現する。最近はそんなことを考えています。

特集
(イメージ画像)

 2026 年 3 月末、Anthropic の CMS 設定不備からドラフト記事が流出しました。サイバー攻撃能力で他モデルを大きく上回ると言われた Claude Mythos(当時はkapibaraという名前でした)が世界に与えた衝撃は、記憶に新しいですが…あれからもう、半年が経とうとしています。

 皆様、いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。

● 米国市場にも衝撃を与えた「Mythos ショック」

 4 月に正式発表された Claude Mythos は、米国市場にも大きな衝撃を与えましたね。4 月上旬には、主要サイバーセキュリティ関連企業の株価が相次いで下落し、中には 2 桁(10 %以上)下落した銘柄も。世界中で「フロンティア AI が、サイバーセキュリティ企業を呑み込む」と感じたのも束の間、それらサイバーセキュリティ企業の株価は、5 月以降に反発しました。一体、何が起きたのでしょうか?

● 「勘違い」が株価下落を引き起こした?

 実は、多くの人が勘違いしていたこと、いや、今も勘違いしていることが大きな1つの原因となっています。「高いサイバー攻撃能力をもった生成 AI モデルは、サイバーセキュリティ(防御)能力も高いはずだ」という“勘違い”です。例えば、こんな三段論法です。

 1.AI は脆弱性を発見する能力が高い
 2.セキュリティベンダーは、その高い脆弱性発見能力をウリにしている
 3.AI は、セキュリティベンダーを代替する競合となる(セキュリティベンダーの売上が減る)

 これは(結果を見ると)勘違いだったわけですが、身の回りのことで考えてみれば “当然” の結果だった、とも言えます。

 例えばサッカーの話。

 世界最高峰のサッカー選手であるメッシや C・ロナウドは、確かに攻撃力(得点力)では抜群のパフォーマンスを発揮します。では、彼らは、同じように世界最高のゴールキーパーになれるのでしょうか?

● 株価の V 字回復は“必然”だった

 恐らく、彼らがゴールキーパーにポジションを変えたら、代表選手にもなれないはず。攻撃と防御は、それくらい「全く違うゲーム」だということです。

 元々、セキュリティの世界では「攻撃と防御の非対称性」という概念があります。攻撃側は、多くの攻撃(チャレンジ)を行って1回でも成功すれば「成功」になる。一方の防御側は、無限に迫りくる攻撃を全て防ぎきることでようやく「成功」になる。どこまで技術が進化しても、防御側は常に不利なゲームの中で頑張るしかないんだ、ということですね。

 サイバー攻撃能力の高い生成 AI が、必ずしもサイバーセキュリティ(防御)で同様のパフォーマンスを発揮するとは限りません。生成 AI がサイバー攻撃をする時、無限回数のチャレンジを行って1回でもセキュリティを突破できれば「すごいモデル」と評価されるでしょう。しかし、生成 AI に防御を任せた時、高度な攻撃を1回だけ防ぐことができても「すごいモデル」とは言えません。つまり、生成 AI がセキュリティベンダー(製品)を代替する、という三段論法が間違っていたわけです。

 さらに、Claude Mythos へのアクセスを許可された Project Glasswing 参画企業の研究からも、生成 AI のモデル性能自体より、それを専門家が上手くコントロールすること(ハーネスエンジニアリング)の方が、パフォーマンス向上に重要であるという事実が分かってきた。同時に、フロンティア AI 企業(OpenAI や Anthropic 等)も、セキュリティベンダーを駆逐するのではなく、彼らを支援する側に回る姿勢を見せた。

 これら複数の要因が重なって、生成 AI 時代のセキュリティ対策は、引き続きサイバーセキュリティ関連企業の存在感は揺らがず、むしろ強くなっていく見通しが立ったことで、関連銘柄の株価は V 字回復を果たした、というわけです。

● 確率論のセキュリティ、決定論のセキュリティ

 ここで、セキュリティ対策を「確率論的対策」と「決定論的対策」の 2 つに分けて、AI の使いどころを考えてみましょう。これらを混同していると、AI への投資・AI を利用したセキュリティ対策の失敗に繋がりかねませんし、上手く「ラク」するためには重要なポイントです。

 「確率論的対策」とは、当たりを探す仕事(対策)です。膨大な情報・データから、ノイズをかき分けて問題を見つける仕事は、人間をはるかに上回るスピードを誇る(しかも疲れない)AI がパワーを発揮するところ。例えば、EDR / XDR による振る舞い検知・SIEM によるアラート相関分析・WAF による Bot 検知など「検知・予測」の領域、あるいはペネトレーションテスト等の「一点突破」型の領域が挙げられます。誤解を恐れずに言えば、失敗しても OK・数打って当たれば OK、な領域です。

 一方の「決定論的対策」とは、間違いを探す仕事(対策)です。網羅性・再現性が重要で、証跡や説明が求められる仕事は、人間にとってもツラいですが、AI の不確実性がアダになりがち。例えば、セキュリティ診断による脆弱性検出・SBOM による脆弱性突合・CSPM による権限設定の確認など「判定・突合」の領域が該当します。これらの仕事は「間違い(問題)がないことを証明する仕事」とも言え、同じ入力に対して同じ出力が得られること(再現性)や、見るべき箇所を全てカバーしていること(網羅性)もシビアに見る必要があります。

 ドリブルやシュートが上手いプレイヤーはフォワード(攻撃)に配置し、スタミナと正確性に秀でたプレイヤーはディフェンス(防御)に配置することで、チームとしてのバランスが「ととのう」、そしてチーム力も底上げされる。
同じように、AI が得意な領域・人間よりも高いパフォーマンスを発揮できる「確率論的セキュリティ対策」は AI に任せ、AI とロジックを上手く融合させる「決定論的セキュリティ対策」は人間がケツをもつことで「ととのう、セキュリティ」を実現する。

 古くから、適材適所という言葉はあり「材」は人材を指すことが多かったものの、AI 前提時代には AI/生成 AI も立派な「材」ですよね。生成 AI のおかげ(?)で人間が解雇される時代ですから…。

 人と AI とが、それぞれに適したセキュリティ対策にアサインされて初めて、セキュリティの「仕組みが、ととのう」状態を作れるのではないか。最近はそんなことを考えています。

● 決定論的セキュリティ対策の要諦

 確率論の方は生成 AI にまるっと任せるとして、人間がケツを拭くべき決定論的セキュリティ対策のポイントは、ここまでに紹介した網羅性(やるべきことをやる)、再現性(同じ入力には同じ出力)に加えて、継続性(常に守られている状態を作ること)にあります。

 限りある工数・予算・時間を上手く使いながら、網羅的・継続的に再現性あるセキュリティ対策(脆弱性診断)を実現する1つの解決策として、弊社では「いつでも・誰でも・好きなだけ」診断できる Web アプリケーション診断 SaaS「AeyeScan」を開発・提供しています。

 診断を “イベント” から “習慣” に変えることで、セキュリティの「仕組みが、ととのう」状態をつくりたい! とお考えの方、リソースの制約から解き放たれて決定論的対策を前に進めたい方、ぜひご連絡ください。

 また、もっと人間と AI について語り合いたい方、ぜひ Web 会議や展示会などでお話ししましょう(笑)

《株式会社エーアイセキュリティラボ 事業企画部ディレクター 阿部 一真》

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