お客を「成功」させるのが自分の仕事 ~ 日本プルーフポイント 代表取締役社長 野村健インタビュー | ScanNetSecurity
2026.07.22(水)

お客を「成功」させるのが自分の仕事 ~ 日本プルーフポイント 代表取締役社長 野村健インタビュー

 日本プルーフポイントの野村健は「お客の成功」を最終ミッションに掲げる。製品を売って終わりではなく、顧客が投資対効果を実感し、CIOやCISOが経営会議でその成果や役割を正当に評価されるまで伴走する。セキュリティがコストセンターから価値創造の基盤へと変わる瞬間を、顧客とともに作り出そうとしている。

製品・サービス・業界動向
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日本プルーフポイント株式会社 代表取締役社長 野村 健 氏
  • 日本プルーフポイント株式会社 代表取締役社長 野村 健 氏
  • 日本プルーフポイント株式会社 代表取締役社長 野村 健 氏
  • ラスベガスで開かれた社内イベントに着物姿で参加
  • もともと着物好きで、休日の半分は和服で過ごす

 記者は 24 年間サイバーセキュリティ専門誌の取材を行い、講演や対面をあわせれば 200 人は国内外のセキュリティ企業の社長の話を聞いたりインタビューを続けてきた。彼らが語るのは「攻撃をいかに防ぐか」であり、あくまでそこがセキュリティ企業の責任範囲であって、その先、つまり製品を買った顧客のビジネスがうまくいくかどうかに言及されることは一度もなかった。200 分の 0 で一度もなかった。顧客の安心と笑顔、といったポエムは山ほどあったがポエムはポエムである。

 だから「自社製品を購入いただいたお客を『成功』させることが自分の仕事」と言い切った社長に会って驚いた。しかも力んで宣言するのではない。息をするように自然にそう言うのである。実は取材の時は「お客を成功させることが仕事」という発言の異常性にうっかり気づかず、取材後に素材を整理したり精読して初めてその特異性に気づいた始末だった。まるで呼吸のごとく、あまりにも当たり前に口にしたものだからつい聞き流してしまったのだ。おかげで記事の設計を根本から組み直すことになった。

 日本プルーフポイント株式会社 代表取締役社長の野村健は Splunk Japan を 10 年かけて日本のリーディングカンパニーに育てた男だ。2025 年末、野村は日本プルーフポイントの新しいリーダーに就任した。着任から半年弱、野村健が「お客様を成功させる」ために何を行ったのか話を聞いた。

● 商売の家に育つ

 野村の顧客観の原点は、生まれた家にある。祖父も曽祖父も商売人だった。「お客様とか、自分の商品とか、地域、これをずっと大切にしなきゃいけない、そんなことを子供時代に感じた」と野村は語る。「お客さんを大切にしろ、なんて一言も言われてはいないですが、毎日の普通のやりとりの中で、そういうのを感じていた」

 祖父も曽祖父も、リスクを取るよりも真面目に事業を経営するタイプの堅実な商売人だったという。野村の家では毎週のように親戚が 10 人、20 人と集まって食卓を囲んだ。騒がしくて明るい家であり、その中心に当時社長だった祖父がいた。人懐こい笑顔だがあくまで「ビジネス取材対応」という固い仮面に終始覆われていた野村健だが、インタビュー中に唯一、実家のことを語るときと「祖父」と語るときの野村は、そのぶ厚い仮面が少し外れて、素顔が少し覗いて見える感じがした。とても嬉しそうに言うのだ。顧客第一を「学んだ」のでも「教えられた」のでもなく母語を習得するように身につけたのだろう。

● IBM、マカフィー、そして Splunk の 10 年

 1999 年、大学を卒業した野村は日本アイ・ビー・エムに入社。14 年弱在籍し、通信キャリア企業を担当した。コールセンターに寄せられた問い合わせデータをテキストマイニングで分析し FAQ を自動生成するプロジェクトなど、後のワトソンの原型といえる仕事にも携わった。ビッグデータの勃興期に野村は「データとビジネスの親和性が最も高いのはセキュリティ分野」と見定め、SIEM 製品を持つマカフィーに転じる。約 3 年の在籍を経て 2015 年、日本法人の立て直し期にあった Splunk に入社した。

 Splunk には「10 年と 1 週間」いたと即答した。「10 年」ではなく「10 年と 1 週間」と聞いて、おまえは軍人かと思ったし、自身のミッションに対する敬意のようなものを感じた。前半 5 年はセールスリーダー、後半 5 年はカントリーリーダー、すなわち日本法人の代表である。

 入社当時の Splunk は、日本ではネットワーク障害の分析ツールとして技術好きのアーリーアダプターに小さく売れている製品だった。「それらは大事な用途だが、その使い方なら一定の規模を超えない。一方海外で Splunk は、重要なビジネスに関わるセキュリティ/IT分析などに使われ、投資対効果が認められ日本とは桁の違う投資が行われていた」

 野村の成し遂げた仕事は、Splunk を「ネットワーク管理者のツール」から「CIO・CISO が経営会議で自らの KPI を説明するためのツール」へと再定義することだった。米国やオーストラリアの先行事例を顧客とともに現地へ学びに行き、支援の形を探し、顧客の成功に注力した。Splunk が日本のセキュリティ業界で確固たるブランドを築いた背景には、この地道な再定義の 10 年がある。

 冒頭に書いたように野村が「顧客の成功」と言うとき、それは漠然とした理念などではない。もちろんポエムでもない。数字や行動で定量化や可視化ができる実体のあるものが「成功」である。顧客が製品を使いこなして投資に見合う効果を出し、CIO や CISO がその効果を経営陣に自分の言葉で説明できるようになる。新しいセキュリティ投資の稟議が通るようになる。そこまで到達して初めて「成功」と呼べる。

● Splunk を育てた男はなぜ「いまさら e メール」の会社を選んだのか

 プルーフポイントから野村へのオファー期間は長かった。同社チーフエヴァンジェリストの増田(そうた)幸美によれば、口説き落とすのに かなり長い期間を要し、アジア太平洋・日本地域を統括するジョージ・リーが来日するたびに説得に通ったという。

 打診を受けて最初に思ったことを野村は隠さない。「いまさら e メール? と一番最初に思ったんですよ」

 だがどのような返事をするにせよ、一度はこの会社を真剣に検討しないわけにはいかない。プルーフポイントについてちゃんと考えてみようと腰を据えたとき、ふと思い出したことがあった。Gartner がいったん廃止したメールセキュリティの Magic Quadrant を復活させた、とマカフィー時代の同僚から聞いていたのである。廃れたはずの領域が、なぜ今また評価軸に戻ってくるのか。検索してみると、増田がメディアで盛んに発信していた。メール経由の攻撃は世界中で激増しており、プルーフポイントが観測した新種メール攻撃キャンペーンのうち日本を標的とするものが 2025 年で 8 割を超える。「いまさら」どころか、いま攻撃者が最も日本を攻撃している手段が電子メールだった。

 Splunk で 10 年やってきた「最後の砦」側の限界も見えていたという。「攻撃をすり抜けられても、すぐに原因を特定しリカバリーする。最後の守り神としての SIEM は今でも非常に大事だと思っています。ただ、攻撃量が莫大に増えてしまった。一番後ろで分析するにはデータ量が多くコストもスキルも要る。これをすべての日本のお客様に買ってもらうのも現実的ではない」。DX も AI 活用も、セキュリティの後ろ盾なしには進められない。ならば「攻撃の入口に最も近いところ」の防御を固めることではないか。

 人の縁もあった。プルーフポイントの創業 CEO で、後に Splunk の CEO を務めたゲイリー・スティール、そしてスティールの Chief of Staff(社長室長に相当)との縁である。野村は Splunk 時代、この 2 人のもとで「日本の変革プロジェクト」を進めた経験がある。2 人はいずれもプルーフポイントの出身だ。「勝手に親近感が湧いた」という。

 日米のシェアギャップも成長余地として映った。国内ではデロイト トーマツ ミック経済研究所の調査で、プルーフポイントはアンチスパムメール市場の出荷金額シェア 1 位を 3 年連続で獲得している(2024 年シェア 24.1 %)。米国でもガートナーによると e メールセキュリティのシェアは 1 位だが(Gartner Enterprise Software Market Share Ranking の Security Software / Secure E-mail Gatewayの2025 年トータル売上高ベース)、日本の 1 位は米国の 1 位と比べて水準に開きがある。これぐらいギャップがあるなら伸びる余地は十分にある、と野村は読んだ。

 印象的だったのは、転職を決めた後、親しい顧客に挨拶に回ったときのことだという。すでにプルーフポイントユーザーである顧客が思いのほか多く「プルーフポイント、すごくいいよ」と声をかけられた。「製品が変わってもお客様の支援をこれからもいっぱいできると思ってワクワクした」という。

● 着手したこと(1)製品には必ずサービスを付けて売る

 野村が着任してすぐに行ったのは、顧客や社員との対話だった。「CIO や CISO の方だったら 60 人ぐらい会っているかもしれません」。さらに米国本社にも足を運び、エグゼクティブと対話を重ねた。

 そこで確信したのは、製品の需要は確かにあるが、それだけでは足りないということだった。「お客様は別にプルーフポイントの製品が欲しいのではなくて自社のセキュリティの課題を解決したい、あるいは DX を推進する上でセキュリティの問題を潰したいと考えている。だから、すぐに導入して、対策して、運用して、変化に対応して、活用する。そこまでが必要なんです」

 野村が打ち出した方針は明快である。「製品には必ずサービスを付けて販売すること」以上。

 具体的には、TAM(テクニカルアカウントマネージャー)と、RCS(リカーリングコンサルティングサービス)だ。TAM は販売後、顧客が製品を使いこなせているか、投資対効果が出ているか、新機能を活用できているかを見続け、トラブル時にはサポートと開発の間に立つ。リカーリングコンサルティングサービスは、構築が終わった後も継続的に脅威情報等のセキュリティのアドバイスを提供し続ける。

 実はこれらのサービスは米国には以前からあった。日本で提供されてこなかったのは人員の問題にすぎない。かつての日本の営業現場では「TAM に日本語話者がいないから」と、無償で付帯させる慣行すらあったという。野村はこれを覆した。日本語を話せる TAM の採用枠を本社に認めさせ、採用を進めた。

 サービスを付ければ当然価格の話になる。「プルーフポイントの製品は安いかと言ったら、安くないです。だから、それに見合う価値を出しますよ、と言えなければ購入していただけない」。そして野村はこう続ける。「プルーフポイント製品を最初に導入した数年前の機能や製品の理解で運用したら、半分くらいしか使えていないかもしれない。せっかくお金を払っていただいているのに、それではもったいない。100 %、120 % 使っていただくためにやるべきことをやる」

日本プルーフポイント株式会社 代表取締役社長 野村 健 氏(撮影:迎田 政宏)

 日本は構造上、ユーザー企業側の IT 人材が薄い。新機能が出るたびに Web を見て自力で設定を変えられる顧客は稀である。だからこそ伴走のサービスが必要になる。パートナー企業にもこの役割を担ってもらうべく支援体制を組み替えており、実質 1 名だったチャネル担当は、ディレクター、営業、SE、マーケティング、チャネル専任 TAM を含む 8 名体制になった。

 「お客様が成功しない限り、私たちの成功はない」野村の方針のコアはこの言葉に尽きる。

● 着手したこと(2)特定の個人がいなくても回る仕組み

 次に手を付けたのが組織である。野村の組織論は一見逆説的だ。人が一番大事だと言いながら、人に依存しない仕組みを作ろうとする。

 「社員はとても大事です。ただ、その方の特殊性に依存しすぎてはいけない。お客様は、例えば、野村個人がいようがいまいがプルーフポイントを使い続けなければいけないし、野村がいるから買うわけでもない。長期的にこの会社と付き合ってセキュリティを高められるか、を見ていらっしゃる」

 具体策は 2 つある。個人が価値を発揮するプロセスを可視化して他の人でも再現できるようにすること。そして、うまくいった成功事例を属人的なままにせず、チームに横展開することである。「日本企業はプロセス化がとても上手です。外資系は個人が強い傾向がある。それ自体は大事なことですが、個人がうまくいったことをチームに広げることが、すごく大事だと思います」

 仕組みで固める一方、野村がしつこく追求するものがある。明るさだ。「ファンな要素」という言葉も使った。「強い組織は変化に適応できる組織です。でも変化するのは簡単ではない。だから変化を楽しめるようにしたい。『大変だな』じゃなくて、笑いながら『楽しい』と言って変わるぐらいのメンタリティがいい。ロジックだけでは超えられないことはいっぱいある」

 実際、変革とはときに、顧客に追加費用を求めることでもあり、社員にとって楽な仕事ではない。だからこそ日本プルーフポイント社内で開催されたお客様との会食の席では 、日本酒好きの社員に野村が「十四代」の一升瓶を振る舞うような、楽しい要素を欠かさないという。「とにかく楽しくないと。これまですべての会社でそればっかりやってきました」

● 着手したこと(3)本社を動かす

 日本法人の社長のもうひとつの仕事は、グローバルのリソースを日本に振り向けさせることである。世界的なリソース争奪戦の中で、本社の投資判断を日本に向けさせるにはどうするか。野村の答えは「違いと共通性をセットで説明する」だった。

 違いの説明には根拠となる数字を用いる。「単に『日本の商慣習ではパートナーが大事』と言うだけでは伝わらない。そうではなく『米国は IT 人材の 3 分の 2(66 %)がユーザー企業側にいるのに対し、日本は 4 分の 3 がシステムインテグレーターやベンダー側に在籍している。だから日本のお客様はシステムを作るときにパートナーの力を借りる構造になっている』と説明する」

 しかし違いばかり強調すれば、本社は「日本向けに全部作り直すのか」と身構えてしまう。だから必ず共通性を添える。「セキュリティは新しい分野なので、日本独自のベストプラクティスがまだないことも多い。米国のベストプラクティスの 8 割ぐらいはそのまま持ってきて、日本風に変えればうまく回る」と。

 違いを理解させてリソースを取り、共通性を示して投資のハードルを下げる。この説得が効いている証拠に、プルーフポイントの CEO は 2026 年 2 月に来日し、日本のビジネスを 4 年間で 3 倍にすると明言した。日本プルーフポイントの歴代トップはあまり本社に足を運ばなかったのに対し、野村は米国で本社が開催したカンファレンスにも自ら乗り込み、持ち前の陽性の押し出しの強さでエグゼクティブとの関係強化に力を注いだという。

 野村のプレゼンス戦略には、意外な小道具がある。着物だ。ラスベガスで開かれた社内イベントに、野村はチームとともに着物姿で参加した。「和服を着ていると、中国の服とも韓国の服とも違っていて、遠目にも日本人だと一目で分かる。たくさん声をかけられるし『日本人の看板』と覚えてもらえる」。海外のイベントでは、着物というだけで記念撮影の写真の中央に招かれることもあるという。そもそも野村はもともとの着物好きで、休日の半分は和服で過ごしているそうだ(本記事文末の写真参照)。日本市場の価値と印象を本社首脳陣に刻み込むうえで、これほど雄弁な戦略的ユニフォームもあるまい。

● 守る力がある企業だけが攻め続けることができる

 野村がどの講演でも必ず繰り返すと決めているメッセージがある。「守る力がある企業だけが攻め続けることができる」。最後にその真意を聞いた。

 「日本のお客様は皆、ビジネスを成長させたいと思っていて、デジタル化や AI の活用を否定する人は絶対にいません。少子高齢化で労働人口が減る日本は、デジタルや AI を使わざるを得ない。しかし、セキュリティなしで DX や AI 活用を進めてしまったらとても危ない。何か事故が起きると『もう IT を使わない』という萎縮効果が生まれてしまう」

 野村が例に挙げたのは、大手コンビニチェーンが立ち上げた決済サービスが不正アクセス事件によって短期間で廃止に追い込まれた、あの一件である。「あんなに有名なサービスが、セキュリティ事故でサービスをやめてしまうところまで行ってしまった。日本で一番素晴らしいコンビニエンスストアがペイメントサービスを作ったら、本当は絶対に皆に使われるサービスになっていたはずなんです」。

 守れなければ、攻めるためのアクションそのものが打てなくなる。だから「守る力がある企業だけが攻め続けることができる」のだ。

 冒頭で述べたように、セキュリティ業界には暗黙の一線があった。攻撃を防ぎ、侵入を検知し、被害を最小化する。そこまでがセキュリティ企業の責任範囲であり、その先の顧客のビジネスの成否は「お客様次第」という不文律だ。製品が正しく動作すれば責任は果たしたことになる。それが業界の常識だった。そしてこれは何も間違ってはいないと思う。

 だが、日本プルーフポイントの野村健はその一線を軽やかに、しかし確信を持って越えてきた。「お客の成功」を最終ミッションに掲げるセキュリティ企業爆誕である。製品を売って終わりではなく、顧客が投資対効果を実感し、CIO や CISO が経営会議でその成果や役割を正当に評価されるまで伴走する。セキュリティがコストセンターから価値創造の基盤へと変わる瞬間を、顧客とともに作り出そうとしている。

 この変化は、日本プルーフポイント一社にとどまらない意味を持つだろう。セキュリティ業界全体が「守るだけ」から「成功まで導く」へとシフトする契機になるかもしれない。少なくとも、顧客企業にとってこれは熱烈歓迎すべき変化であることは間違いない(一部のセキュリティ企業にとっては迷惑千万かも)。だが、DX や AI 活用が待ったなしの日本企業にとって、セキュリティ投資が「必要悪」ではなく「成長投資」として位置づけられる日が来るとすれば、それは野村のような考えを持つリーダーが増えたときだろう。

 商売人の家系に生まれ、顧客第一を呼吸のように身につけた男が、セキュリティ業界の「当たり前」を静かに塗り替えようとしている。その成否は、これからの日本プルーフポイントの成長が証明することになる。

(写真提供:野村健)
《高橋 潤哉》

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