消費者庁は4月、「いわゆる『ダークパターン』に関する取引の実態調査」を発表した。
「ダークパターン」は、公的機関によって「ユーザーを欺いたり操作して、それがなければ選択しなかったであろう選択をさせ、害を及ぼす可能性があるデザインの慣行」等と整理されているもので、法令の中では「ユーザーの自主性、意思決定又は選択を妨害し又は損なう実質的な効果を有するよう設計され又は操作されたインターフェイス」と定義付けるものがある。
同調査では、研究者による概念の整理や公的機関による整理等を概観し、ダークパターンとして念頭に置かれている事例が幅広く、是非の判断が分かれること等から、必ずしも統一的な概念ないし意義として把握されているわけではないが、「1. 消費者の誤解を招いたり誘導することを通じて意図しないことをさせる」か、消費者の自主的な意思決定や選択を損なうことによって、「2. 消費者の最善の利益に反するとともに事業者の利益になる意思決定をさせる」といった要素が見られるとまとめている。
ダークパターンの想定される事例として、下記を紹介している。
・EU
EUでは、ダークパターンに関連する法執行又は運用として、アマゾン社のプライム会員の退会時、アプリでは合計9回のタップが必要であるとともに各画面で真意の確認や翻意を促す表示がされていることについて、欧州委員会の指摘で合計2回のタップで退会することができるようシステムを設計するとの合意がアマゾン社との間に成立したとされる。
一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation,Regulation2016/679/EU)の執行事例として、フランスのデータ保護機関(情報処理と自由に関する国家委員会、CNIL)では、通信機器小売販売会社が、個人情報を第三者に提供することに同意するボタンが特に強調され、同意をせずにサービスを利用することができるハイパーテキストリンク(「ここをクリック」)が、ボタンよりはるかに小さい文字で特に強調せずに表示されるといった画面上の表示に関し、GDPRで規定されている個人の明確な同意を得る義務が遵守されていない等の理由で、525,000ユーロの罰金を科したものがある。
・米国
米国の連邦取引委員会(FTC)では、子ども向けオンライン学習プログラム ABC mouse を運営する Age of Learning に対し、サブスクリプション契約が自動的に更新されることを保護者に明確に説明しておらず、登録時には簡単なキャンセルを約束したにもかかわらず、電話やメール等で解約をしようとした消費者に長く複雑な手続を要することで解約を困難にしたとして訴えを提起したところ、同社は和解金として1,000万ドルを支払うこととなった。
ビデオゲーム Fortnite を製作した Epic Games に対し、児童オンラインプライバシー法(COPPA:Children’s Online Privacy Protection Act)に違反して保護者の同意なく個人データを取得するとともに、画面がローディング中であるときにスリープモードから戻した場合やアイテムのプレビューをしているときに隣接したボタンを押すことで課金されることがあるといった、ユーザーを欺くダークパターンを使用して不要な課金をさせたとして訴えを提起したところ、同社は5億ドル以上を支払うこととなった。
アマゾン社に対し、プライム会員の登録に関し「ダークパターン」と呼ばれる操作的・詐欺的・欺瞞的なユーザー向けのインターフェイスのデザインを使用し、消費者を欺いて自動更新のプライム会員に登録させるとともに、会員が退会しようとする際の手続を故意に複雑にし、その解約手続の主な目的は、会員が解約をすることができるようにするのではなく、解約をやめさせようとするものであったとして、行為の差止め等を求めて提訴している。
アドビ社に対し、ソフトウェアのサブスクリプション契約に関し、年間契約の毎月払いプランがあらかじめ選択されているとともに目立つ表示をする一方で、初年度に解約をした場合は、解約料が残額の50%になるといった解約料に関する記載は目立たない表示をしていたことや、消費者がウェブサイト上で解約をしようとすると多くのページを遷移しなければならないとともに、カスタマーサービスに連絡をして解約しようとすると通話やチャットがつながらないといった困難が生じた等として、行為の差止め等を求めて提訴している。
FTC では、サブスクリプション契約や会員登録を終了させることに関し、契約や登録をするのと同程度の容易さにしなければならないとする規則を導入することとしている。
・国内
ダークパターンに関連する日本での法執行又は運用としては、特定商取引法の規定に基づく定期購入商法の執行事例を挙げている。
定期購入商法については、化粧品の販売サイトで「初回550円」という表示を見て注文したところ、2回目以降が1個あたり1万3,000円の定期購入になっていたことについて、数日後に同じ商品が届いて気付いたが、販売サイトでは定期購入との表示は確認できなかった等の事例がある。
消費者庁による注意喚起の事例として、消費者安全法の規定に基づき、チケット転売の仲介サイトにおけるカウントダウンの表示が虚偽であったとして消費者に注意喚起を行った事例がある。
国民生活センターによる公表事例として、通販サイトにおいて価格に「¥」の表示がされているが、実際には「中国人民元(CNY)」であるにもかかわらず、その旨の表示が隠されているという事例や、国内事業者のサイトで会員登録等をしようとしていたところ、「スタート」等のボタンが表示され、そのボタンをクリックしてクレジットカード情報等の個人情報を入力したところ、全く別の海外事業者とのサブスクリプション契約の申込みをしていたという事例がある。