創刊 26 周年記念キャンペーンのおしらせ(5)ScanNetSecurity が廃刊危機を脱した理由 | ScanNetSecurity
2025.02.28(金)

創刊 26 周年記念キャンペーンのおしらせ(5)ScanNetSecurity が廃刊危機を脱した理由

 そのときの少しひるんだ顔を今でもはっきりと思い出すことができます。オンラインメディアなど単に Web ページを閉じてしまえば This is The End。よもやその向こうにそれを読む生きた人間がいるなどとは夢にも思っていなかったような虚を突かれたような表情でした。

おしらせ
(イメージ画像)

(編集部註:本記事は 2024 年 11 月 21 日 (木) に配信されましたが編集ミスで別データ(おしらせの第 6 回)が上書きされ読めなくなっていたため再配信します。なお、クレーム等があって記事を削除したものではまったくございません)

 11 月 30 日 (土) で終了する本誌 ScanNetSecurity 創刊 26 周年キャンペーンのお知らせや告知の際に「媒体継続のためにぜひキャンペーンをご利用ください」という言い方をしてきましたが、このメッセージには大きく三つの理由があるのでここで説明をしておきたいと思います。

 理由のひとつめは端的に通常 Web 媒体が収入の柱とするネットワーク広告収入が ScanNetSecurity では成り立たないということです。

 ネットワーク広告とは、広告プラットフォームが配信する広告枠をウェブに貼り付けて広告を表示させ、それをクリックしたり、クリックして遷移後に監視資本主義の勝者企業が喜ぶこと(アプリのダウンロード etc.)をユーザーがするとチャリンチャリンとお金が入るもので(「コンバージョン」などという人間をモノ化する名称がつけられています)、聞いて驚け ScanNetSecurity の 2024 年 10 月度のネットワーク広告収入は堂々総額 56,400 円。たしか週に一度か二度行く狭苦しくて会議室予約がまったくとれずに自費で1階のジョナサン中野坂上店で打ち合わせをせざるを得ないオフィスの家賃割り当てが一人頭月 11 万円くらいある状況での 56,400 円です。

 決して 10 月が突出して低いというわけでは全くなく、9 月は 53,867 円、8 月はなんと 45,203 円と書けばおわかりの通り、5 万円を超えるのは良い方に属します。まるで日本企業には「ScanNetSecurity の広告をクリックしてはいけない」という就業規則でも存在するのではないかと疑うぐらいの小さい数値と言わざるを得ません。

 ちなみに ScanNetSecurity のオーナー企業である株式会社イードには 70 以上の Web 媒体が存在するのですが、ScanNetSecurity がダントツ最下位の数字を毎月叩き出し続けていることは言うまでもありません。

 セキュリティ情報というのは「損をしない」ために参照する情報であり、一方で広告の多くは新しいビジネス機会や手段など、どちらかと言えば「得をする」方向のものが多い訳で、この「損をしない」 vs 「得をする」、似ているようで違うふたつのマインドセットや動機がバッティングすることで打ち消し合い、広告への活性が鈍くなるのではないかと編集部では思量をしている次第です。

 長くなりましたが 70 媒体中最下位のネットワーク広告収入である ScanNetSecurity にとって、有料会員制サービス Scan PREMIUM の存在がどれだけ大切であるか間接的にせよご理解いただけることと思います。

 ScanNetSecurity 創刊 26 周年キャンペーンを利用していただくことが、媒体の存続と直結するもう一つの理由は、生きた人間として仕事に取り組んでいる読者の顔がある程度見える媒体運営が可能になることです。

 一種の媒体設立趣意書として Web に公開している文章に書いていますが、全員ではないにせよ、有料会員制サービスによって、ある程度読者の方のご所属産業などが推定できることで、読者がどんな情報を求めているのかを考え、編集部はそういった会員に向けて、あるいは意図せずにコンテンツをチューニングしていきます。これが Google Analytics 4 や、X 等 SNS の反響だけしか読者との接触面がない Web 媒体との最大の違いです。Google Analytics 4 だけでは、男女比率や地域別ユーザー数など、非常に荒削りなデモグラフィックデータばかりしか手に入りません。

 たとえば先日配信した『解雇された元社員がレストランのメニューをハッキング、アレルゲン情報削除ほか』という記事がありますが、これはエンタメ産業のハイブランド企業で起こったスキャンダラスなサイバー事案ということで掲載しているのだろうと思いの方もいるかもしれませんが、必ずしもそうではなく(10 % ぐらいはそうです。ディズニーですしそれは確かに認めます)メニュー改竄によるアナフィラキシーショックという可能性は、かつてのジープチェロキーのハッキングと同じくらい生きた人間にとってはインパクトのある脅威可能性であり、外食産業の読者の方や食品流通などに関わる読者の方に読んでいただきたいと思ったことが、本記事掲載の一番の理由でした。

 最後にみっつめの理由として、わざわざ貴重なお金を払って課金していただいた読者の方が存在することで、10 年以上前に起こった奇跡についてもここで触れておかないわけにはいかないと思うので書いておきます。

 ScanNetSecurity がバリオセキュア・ネットワークスの子会社だった 2009 年頃だったかに、バリオセキュアという会社は売り上げも利益も右肩上がりで伸びているのに、株価が右肩下がりで下がっているという不思議な会社であったため、市場原理のもと TOB(敵対的買収)をまんまと仕掛けられてあっさり会社が乗っ取られるという事態が出来(しゅったい)しました。

 筆者が尊敬していた、石塚英彦さんが北野武監督のヤクザ映画に出演したような風貌の長谷部さんを除く役員全員は、ゾンビでぎっしり詰まったショッピングセンターからヘリコプターで脱出するがごとく逃げ出し、事業部長クラスは次々と粛清されたわけですが、新たにやってきた経営陣というのが非常にわかりやすい人たちで、ここからは推測が入りますが、彼らマザーファッカーたちがやったことは「成人前の子供がいる正社員の解雇」「住宅ローンが残っている正社員の解雇」「要介護の親がいる正社員の解雇」「間接業務についている35歳以上(転職が困難になる年齢)の正社員の解雇」「ただし 除:数字なり顧客なりを持っている人」という基準でもあるとしか思えない一種必要悪な仕事の遂行を目の当たりにしました。財務状態はきっと一瞬にして超絶良くなったに違いありません。

 10 年以上前のことなので名は忘れたのですが、確か及川さんという乗っ取り以降に来た最初の社長が次に目をつけたのが ScanNetSecurity でした。

 当時の ScanNetSecurity は、のれんの償却を除くと黒字ではあったものの小規模も小規模の事業で、おそらく現在よりもずっと低い 3,000 万円ぐらいの年間売り上げでした。ある日及川さんが「こんなチンケなビジネスを畳んで、別の事業を始めようぜ」と言いだし、その方向に話は進みかけました。

 TOB 直後当時の関係者の名前は、その当時の記憶が楽しさや愉快さとは正反対の経験を煮詰めたような時期だったため、ほとんど忘れているのですが、なぜか及川さんという名前だけを覚えているのかについては、当時 CDI のカントリーマネージャー的地位にいた飯沼“ジャック”勇生さんとこの時期会う機会があって話をしているときに「この新しい社長の及川さんという方は及川奈央と何か関係があるんですか?」と東大仏文学の教授が現代哲学についてなにかとても繊細かつ大事な発見をして、それを同僚に共有するような、エレガントかつクール、そして至って真面目な口調で質問を受けたことで鮮明に記憶に残ったからだと思います。付記しておくと及川奈央さんとは 2000 年代に活躍したセクシー女優の方で、こども向けの戦隊物番組に出演するほど人気があった方です。呼吸するように下ネタをエレガントに量産する飯沼さんの優しさ(当時筆者は死にそうな顔をしていたに違いないと思うので)でした。

 さて、ほぼ廃刊方向に決まりかけていた ScanNetSecurity がなぜかその後約 15 年経った 2024 年現在でもこうしてのさばって情報配信を続けていられるのは「とはいっても及川さん、ScanNetSecurity は有料会員制の媒体なので廃刊するとなると返金業務が数万件発生しますよ」と少々数字はかましつつも、筆者が及川さんに伝えたからで、鉄面皮(てつめんぴ)を身上としていた及川さんの、そのときの少しひるんだ顔を今でもはっきりと思い出すことができます。オンラインメディアなど単に Web ページを閉じてしまえば This is The End。よもやその向こうにそれを読む生きた人間がいるなどとは夢にも思っていなかったような虚を突かれたような表情でした。

 TOB 直後の貴重な経理部のリソースを使って、返金先の現行口座を聞き出したり、手数料弊社負担で振り込みをするという煩わしい膨大な事務(しかも何の利益も生み出さない単なる敗戦処理)が脳裏に去来したとき、さすがの新自由主義経済の勝者にして金の亡者(褒めてこう言っています)の及川さんもこう思ったに違いありません。「面倒くさい」と。

 このようにして ScanNetSecurity 廃刊の危機は Scan PREMIUM 有料会員の存在が重要な一因となって回避されました。

 筆者はそれまでメディアは編集者のアイデアや記者の取材力や文章力で運営されるものだとばかり思っていましたが、読んでくれる読者が存在するからこそ取材をし記事を書く動機が生まれるのであり、どちらが主でどちらが従という関係ではないのだと、この出来事があってから思うようになりその後の財産になったことは認めざるを得ないところで、及川さんほかの TOB のタイミングで派遣された取締役の方たちは全員正真正銘マザーファッカーではあったものの、大事なことに気づくきっかけをいくつか得たことも事実です。墓石があるならそれにツバを吐きたい強い欲求は変わらないものの、みな人間的魅力に富んだマザーファッカーでもあったと思います。

 思っていた以上に長く書いてしまっていますのでこのあたりで筆を置きますが、一言でまとめるなら、読者の方への感謝そして感謝ということと、もう一つは現在創刊26周年キャンペーンを実施中で、あした11月末で終わりますので、媒体が継続して欲しいと思う方はぜひご利用を検討ください、ということです。

《高橋 潤哉( Junya Takahashi )》

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