#NoMoreFake 第9回「フェイクニュースパイプライン」 | ScanNetSecurity
2024.03.28(木)

#NoMoreFake 第9回「フェイクニュースパイプライン」

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後ろ髪をキュッと結び、いかにもキャリアウーマンというようなぴったりしたパンツスーツが似合う女性は、兄と一緒に FAKEx のサイトを運営している記者の三木さとみさんだという。兄とは大学の同級生で、大学でも兄とフェイクニュースの研究サークルをやっていたそうだ。

「はじめまして。三木さとみと申します。普段はテレビの報道などを担当しているフリーの記者です」

「はじめまして。畠山と申します」

名刺交換をする畠山さんと三木さん。

「あ、影山くんの妹ちゃん?」

畠山さんの隣にいた私をみて、ぱっと笑顔になる三木さんに驚く私。

(すごくきれいな人だなぁ…)

「あ、はい。初めまして。影山遥と申します」

ペコっとお辞儀をすると私にも名刺を出してくれた。

「たまに影山君から話は聞いてたの。こんなかわいい妹さんだったなんて」

はきはきとした物言いだが威圧感はなく、三木さんのおかげでその場がぱっと明るくなる。かっこいいなぁとぼーっと見ているうちにお兄ちゃんを筆頭に三人の会話が進んでいた。

「今回、FAKEx のメンバーに話をしたら、みんな快諾してくれて。普段はみんな個人が明らかになるようなことはしないようにしてるんだけど、三木さんは直接畠山さんに会って話を聞きたいって言ってくれて。三木さんはテレビとかでも顔が広いし絶対に力になってくれるから紹介しようと思って」

「ありがとうございます。ぜひご協力いただきたいです」

頭を下げる畠山さんに「微力ですが」と謙遜する三木さん。

「一応、おふくろさん食堂の件については三木さんに話したんですが、明日から記事を出していくんですよね?」

「はい。ネットでどのくらい拡散させられるかはわからないのですが一応 10 万インプレッションはすぐに行くと思います。そのあとどのくらい拡散していくかですね」

「例えば、おふくろさん食堂の事件の核心の前にもうワンクッション置いてみたらどうでしょう?」

三木さんの提案に畠山さんが身を乗り出す。

「もうワンクッションっていうのは?」

「フェイクニュースパイプラインって知ってます?」

「フェイクニュースパイプライン?」

ふいに言葉に出して気づいたが、私以外の三人はすでに知っているようだった。一人素人のように聞き返す自分が恥ずかしくなるが仕方がない。でもまぁ、わかるふりをして、話についていけなくなるよりは良い。

「今回のおふくろさん食堂が良い例なんだけど、フェイクニュースはテレビとか新聞のニュース内容と SNS の批判的なコメントとかを引用して作られていることが多いの。そういうまとめサイトやニュースを掲載しているサイトのことをミドルメディアって言うんだけど、大手のポータルサイトがミドルメディアの記事も取り扱うようになって、フェイクニュースを拡散させやすい環境ができたの」

何も知らない私に三木さんはすごく優しく教えてくれる。きっとモテるんだろうな。

「それがフェイクニュースパイプラインですか?」

「そう。遥ちゃんもパソコン開いて一番最初に出てくるポータルサイトに載ってある記事読んだことあるでしょ?」

「あ、はい。芸能ニュースとか」

「日本は多くの人がポータルサイトから情報を得てるから、ポータルサイトがミドルメディアを取り扱うようになって記事が増えた分強力なフェイクニュースパイプラインができちゃったの」

「なるほど。それを意図的に活用するんですね」

理解が早い畠山さんはすぐに作戦を把握する。

「例えばおもしろ動画でも、何でもいいんだけどポジティブな要素を先に流していくことで、味方も増えると思うし、拡散力も上がって討論の幅も広がってくると思うのよね」

「テレビで取り扱ってもらうまでになれば万々歳ですね」

三木さんの提案に、お兄ちゃんも乗り気だ。こうやって話が進んでいくのを間近で見られるのはすごく楽しい。

(私も勉強しないと)

「知り合いに、おもしろ動画のアカウント持ってる人いて、よく取材の連絡も来る人いるからそこに頼んでみるわ」

早速メールを打ち始める三木さん。

「ありがとうございます。じゃあ俺は引き続きおふくろさん食堂の記事書きますね」

お兄ちゃんもすぐに作業に取り掛かる。

「ありがとうございます」

そして畠山さんも。各々が各々の得意分野で作業していく。

私も引き続きフェイクニュースの情報収集に回る。

>> #NoMoreFake 第10回「フェイクニュースのつくりかた」

大和田紗希 作 / 一田和樹 監修 サイバーミステリ小説「#NoMoreFake」
《大和田 紗希》

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