#NoMoreFake 第2回「困る企業たち」 | ScanNetSecurity
2024.03.29(金)

#NoMoreFake 第2回「困る企業たち」

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「ごめん、遥ちゃん。一本電話入れてからいくから、先に会社戻ってて」

「あ、はい」

 スーツ姿で電話している畠山さん。こういう時、アルバイトと社員、大学生と社会人の違いを何となく感じる。もちろんアルバイトだって仕事をしているのは同じなんだけど、やっぱりちょっと違う。

(私も、会社に入ったら何か変わるのかな)

 正直、まだ社会に出るという実感はなかった。何となく、知っている会社にエントリーして、なんとなくみんなと同じように就職活動の練習をして、内定をもらった会社を何となく選んだ。特に何がしたいというか、何ができるのかもわからないまま就職活動が終わった。働く意味も、働く意義もよくわかってないのに社会人になんてなれるのかな。たまにふと考える。なんで生きてるんだろうって。仕事して、寝て、食べて、遊びに行って、何の意味があるんだろうって。意味なんてないんだろうけど。社会に出れば少しはわかるのか。わかっている人はどれくらいいるんだろうか。大学生の分際で何を言ってるんだと思われるかもしれないが、たまに自分の存在意義がわからなくなることがある。

 午後からのコールも無事に終え、一斉に帰り支度を始める。コールセンターのバイトは飲食店と違って時間短縮とか延長がない分、スケジュールが取れやすくて好きだ。

 今日の集計を記入しつつ帰り支度をしている私に畠山さんが話しかけてくる。

「遥ちゃん、これ見て」

 畠山さんから差し出されたパソコンでサイトを見てみると、おふくろさん食堂のウィルス感染についての記事が載っていた。

「『おふくろさん食堂の店主は、東アジアへの旅行が好きで今年3回行ったとのことで、感染を心配している……』って、え? なんですか?この記事」

「テレビの報道の後、作成されたフェイク記事。コメントも3,000件以上あるからこれもいろんなところで拡散されてるんだと思う。もちろんコメントには事実じゃないっていう擁護もあるけど」

「このサイトの作成者に直接抗議しちゃダメなんですか?」

「文章の一番下に『事実は今調査中』って書かれてるでしょ?これであいまいにしてうまく逃げられてるんだ。どのサイトが出どころかわからないように複数のサイトでも同じような記事を量産してる」

 畠山さんが携帯を操作すると同じような記事が違うサイトで何件も出てきた。

「トカゲのしっぽみたいですね」

「大元がわからないとどうしようもないんだよね」

「どうするんですか?」

 「実はいま、こういうフェイクニュースを作っている業者の資金源になってる広告を売買している代理店みたいなところがあって、そこに協力してもらえないか頼んでるんだ」

「広告代理店みたいなところですか?」

「そう。企業は広いネットワークの中で、どこにスポットを当てれば良いのかなかなかわからないから、的を絞って広告を出せるように年齢や性別、趣味趣向に合わせて広告を載せられるように代理店に委託している企業も多いんだ。その企業と連帯できれば広告の収入が入る前に止められる」

「なるほど。じゃあみんなで協力できればすぐ見つけられますね」

「それができれば一番いいんだけど……」

「何か問題があるんですか?」

「んー……あ、返信きた」

畠山さんの携帯から着信を知らせる音が鳴る。

協力をお願いしている企業からの返信みたいではあるが、メッセージを読んでいる畠山さんの顔の曇りぐあいで良い返事ではないとがわかる。

「だめだったんですか?」

「んー……完全にダメではないんだけどね、ちょっとまだ決裁者には遠そうだ」

「なんでですか?」

「フェイクニュースは大きなインパクトがある分、普通のサイトよりも広告のクリック率は格段に増えるんだ。そのフェイクニュースを取り締まってしまったら困る企業も出てくるから」

「え、わざとフェイクニュースに広告を出してるってことですか?」

「わざと、とは言わないけど、そのクリック数で助かってる会社があるのは確かだね。それが急になくなってしまうことを恐れて慎重になってるんだと思う」

「なるほど……でもこのままじゃ野放しじゃないですか」

世の中は賢い人に有利にできている。平等なんてそんな甘いことは言わない。でもせめて、人を不幸に陥れてお金儲けできるような仕組みは排除するべきだ。

「そうなんだよね……。もう一つ提案したい企業はあるんだけど、ちょっと遥ちゃんに相談したくて……」

>> #NoMoreFake 第3回「ファクトチェック」

大和田紗希 作 / 一田和樹 監修 サイバーミステリ小説「#NoMoreFake」
《大和田 紗希》

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