>>第 1 回から読む七月十日 夕方 犯人スカイプというのは、世界的に普及している通信ソフトの一種だ。電話のような音声会話や文字での会話(テキストチャット)を楽しむことができる。相手は、私と直接話をしたがっている。どうしたものか…躊躇したが、相手の手の内も知りたかったので、ネットからスカイプをダウンロードし、新しいIDを登録してから起動した。── 工藤さんがコンタクトを希望していますスカイプにメッセージが表示された。こちらがスカイプのIDを取ったとたんに接触してきた。やはり通信を監視しているのだ。緊張で指先がかすかに震えた。私がコンタクトを了承すると、テキストチャットが始まった。── いやお見事、お手上げだよ。ご存じの通り、この会社は信用を大事にする。セキュリティ認証を取り消されるわけにもいかない。あんたがだまっていてくれると約束してくれるなら、残りの三十万円もすぐに払う。── そんな約束してもなんの保証にもならないぞ。── ああそう。まあ、そうだよな。約束してほしいってのは、あんたにスカイプしてもらう口実さ。あんたに自分の状況をちゃんと認識してもらおうと思ってさ。あんた、もうおしまいだよ。── なにを言ってるんだかわからない。── あんた思ったより間抜けだな。こんなに簡単に罠に引っかかるとはね。── やっぱりスパイウエアを仕掛けてあったんだな── まあね。── このPCは、さっき買ったばかりだ。私を特定する情報はない。── たまにいるんだよね。そういう粋がった野郎がさ。『攻殻機動隊』好きだろ。それとも『王様たちのヴァイキング』か?── とっとと電子マネーのコードを送れ。さもないとデータを放流するぞ。画面に相手が返事を入力中であることを示す「…」が表示されていた。ひどくいらつく。こちらの方が圧倒的に有利な状況だとわかっているが、工藤の言葉がいちいちカンに触るのだ。私の脳裏に工藤の顔が浮かんできた。五十万円ぽっちの脅迫。表沙汰にするつもりがないなら、社内で処理すればいいのに。>>つづき