オープンガバメントに潜む三つの脆弱性 後編 | ScanNetSecurity[国内最大級のサイバーセキュリティ専門ポータルサイト]
2018.04.20(金)

オープンガバメントに潜む三つの脆弱性 後編

特集 コラム

オープンガバメントが、単なる多くの人の共感を呼ぶ物語ではなく、社会を動かす、検証可能な概念となるためには、次の3つの脆弱性を解決する必要がある。

●オープンガバメントの脆弱性

(1)民意の定義と測定方法が存在しない

そんなバカなと思う方も多いと思う。しかし、国民全員が納得するような民意の定義と測定方法を決めるのはきわめて難しい。

まず多数決の原理は、破綻していることは昔から知られている。投票方法によって結果が異なるのだ。測定方法として成立しない。選挙区や投票方法を都合のよいように変更することで、投票結果が大きく変わる。これだけでなく単純に投票しただけでも、「択一式」「ポイント付与方式」「順位付け」などのやり方で結果は全く異なる。興味ある方は調べてみることをお薦めする。筆者自身もパロディとして「多数算」というものを作ったこともある。

多数算:多数決の結果を決めるのは、数ではなく選出方法
http://matome.naver.jp/odai/2133407380844081001

リアルな世界では物理的な制約が多いために、この破綻した多数決の不具合を見て見ぬふりをしてすませてきた。ところがネットで投票可能になった場合、異なる方法での集計結果をシミュレーションできる。

この不具合を克服するためには、民意を測定可能な形で定義する必要がある。簡単なようで、これはきわめて難しい。なにしろ、測定方法によって結果が変わるのだから。

これは我々の生きている世界において基本的な問題である。多数決が破綻しているのはまごうことなき事実なので、それに変わる具体的な方法論なしには次のステップはないと私は思う。

これは議論をつくせばいいとか、少数意見も尊重しようとか、そういう問題ではなく、概念は存在するが測定方法が存在しないというきわめて根本的な問題である。

(2)予見に基づく施策と行動に賛同を得にくい=長期計画が困難

多くの国がこれまで間接民主制をとってきた。選んだ代表者に運営をまかせる形だ。普通に考えれば、この方法の方が政治の方向のぶれは少ないように思える。同様に間接民主制が生み出した政党という存在は、施策の方向性をひとつにまとめるものだったはずだ。だが、実際には短期間に首相はころころ替わり、施策も流動的だ。

これが直接投票によって施策を決めることができるようになったらどうなるのか? 間接民主制を残すとしても方向性を担保していたはずの政党がなくなったらどうなるのか?

普通に考えればもっと流動的で場当たり的になるだろう。もちろん議論の場を設けることによって回避することは可能かも知れない。しかし、そんな時間のある人間がどれほどいるのだろう? そんな議論に参加できる人間は、1日にツイッターで100以上つぶやくような人々ではないのだろうか?

また、ネット上での世論形成に影響があると考えられるソーシャルメディアは、デマの流布を加速するというネガティブな側面も持っている。

世論というのがどれくらい場当たり的で踊らされるものかというのは、説明するまでもないだろう。歴史をふりかえれば、1898年に起きた米西戦争はアメリカの新聞各紙が事実を誇張し世論を煽ったためである。もちろん背景はあるのだが、新聞報道をうのみにして世論のうねりがあったのは事実だ。

ネットで多くの情報が公開されればそんなことは起こらないと思う人もいるだろうが、実際にはその逆の可能性も高い。大量の情報発信、それもノイズまじりのものが行われた場合、多くの人は適切な情報の取捨選択を行うことができなくなる。当たり前である。ほとんどの人は仕事や学校がある。大量のノイズを選り分け、真実と思われるものを選んでいる時間のゆとりなどない。

オープンガバメントになり、大量の情報が公開され、さらに意見募集の結果まで公開されるようになれば、その情報量は莫大だ。それに加えて政府以外からの情報発信もチェックしなければならないのである。

自分で情報を選ぶことができない人は、自分なりの基準で信頼できる人やメディアを選択する。これは判断放棄であり、この時点で直接投票の意味はかなり失われてしまう。自分で情報を収集し、判断することが直接投票の基本だからだ。

さまざまな場を設けて議論をつくすことで回避できるかもしれないが、大量の情報の氾濫はそれをも難しくするだろう。なぜなら、ほとんどの人には大量の情報を元に議論をする時間などないからだ。その時間がある人間は、きわめて偏った層に限定される。

(3)不正や妨害工作が容易になる=回避不能な誤差が拡大する

リアルの世界でも投票行動への妨害工作は存在するが、これがネットとなればさらに容易になることは火を見るよりも明らかだろう。単純に、票の売買やなりすましのしやすさだけで考えてもネット投票の方がやりやすい。また、正規の投票サイトのように偽装したサイトに誘導し、意図と異なる投票を行わせるトラップを仕掛けることも可能だろう。

有権者が自分自身で自分の投票がきちんと反映されているかどうを確認できる仕組みを導入することにより、こうした問題が回避できるという考え方もあるようだが、「票を売った」有権者にとっては、約束通り投票した証になるので票を売りやすくなるだけだろう。また、いちいち投票結果で自分の投票状況を確認する手間をかける有権者は多くはないだろうし、棄権した有権者については言うに及ばずだ。

ネット投票ではないが、電子投票方法を取り入れた2004年のアメリカ選挙の際にも不正が取りざたされた。これがネット経由となればもっと容易になる。

また、投票行動への妨害として投票サーバにDDos攻撃を仕掛けて投票行動を妨害することもできる。

そして忘れてはならないのは、「不正が行われた」と主張することも容易になることだ。どんな選挙結果にも不満な人間は必ずいる。そうした人間が異を唱える余地を残してしまう。

結果としてこうした不正による誤差の拡大は避けられない事態と考えられる。これは当然の帰結である。なぜなら新しい思想、理論には測定方法と誤差への対処が不可欠であり、それを持たないものは最初から破綻しているからだ。

●終わりに

本稿は、オープンガバメントという新しい可能性を否定しているように見えるかもしれないが、検証可能な測定方法と誤差への対処方法を最初から枠組みに組み込んでいないものは早晩破綻を免れないだろう。あるいは最初から破綻しているといってよい。

言葉をかえればネット時代の新しいなにかを考える際に、この視点を抜きに考えることはできないということに他ならない。それが無ければ、オープンガバメントは、人々の心をとらえる単なる魅力的な物語でありつづけるだろう。

(一田和樹)

略歴:作家、カナダ バンクーバー在住、代表作「サイバーテロ 漂流少女」
《ScanNetSecurity》

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