本連載は、情報システム部門のリーダーに向け、クラウドコンピューティングサービスを客観的に評価する尺度を提供することを目的としている。従来から提供されているIaaS、PaaS、SaaSではなく、今後の企業ネットワークあり方に大きな影響を与えると考えるDaaSについて、ベンダ及びサービス事業者の、現状・動向の調査を行う。まず最初に、DaaSの基盤を提供するベンダ各社のVDIについての姿勢、方針および戦略、製品機能について、仮想化で大きく市場をリードするヴイエムウェア株式会社を取材した。昨年後半から、サーバ仮想化を巡る騒ぎがやや落ち着いてきた感があり、デスクトップ仮想化(VDI)の話題が多くなってきた。デスクトップ仮想化には以下のようなメリットと合理性がある。1) ソフトウェアの一括管理(利用ソフト、バージョンアップ等)2) モバイル機器からの情報漏洩防止3) スマホ/タブレットを含むリモートアクセス基盤4) WindowsXPからWindows7への移行が楽一方で、ユーザは以下ポイントに懸念を持つ。1) 導入コスト2) 動作の安定性3) 性能(レスポンス)4) 使い勝手とりわけコストは致命的な問題だが、クラウドサービス(DaaS)としてインフラを安価に提供できれば、性能や使い勝手のサービス環境次第でコストに厳しい企業や中小企業へも爆発的に導入が進む可能性があると考える。●VMware社のVDIサマリ同社の販売するVDIの商品名は「VMware View」である。VDIはマルチデバイスのアプリの一種と位置付けられている。2011年の売上は伸びており、今後のビジネスの柱のひとつと捉えている。●VDIの位置付けVMwareでは、(1)仮想化の進化、(2)クラウド開発プラットフォーム、(3)エンドユーザコンピューティングをビジネスの三本柱と設定している。VDIは、(3)エンドユーザコンピューティングに含まれ、企業のデスクトップ環境を効率的に管理するソリューションと位置付けられている。つまり、仮想化プラットフォームをベースとして利用形態の多様化を図る戦略と考えられる。タブレットPCは、保険会社などでVDIとネイティブアプリを共存させる新しいワークスタイルが登場している。スマートフォンはVDI端末として資料作成などには不向きだが、緊急に仮想デスクトップにアクセスするような場合には有効である。また、スマホ/タブレット向けのハイパーバイザも2011年米国で開催されたVMworldで既に発表し、特定アプリケーション(例えばWindows)へのアクセス環境を分離する使い方も可能になるという。2011 Q3(7~9月)のAPAC(アジア太平洋地域)のVMwareの売上は42%以上増加したという。従来からのサーバ仮想化のビジネスに加え、在宅勤務やセキュリティニーズが増加がビジネス成長のドライバーとなっている。日本の主なユーザは大企業(業種としては金融、官公庁)で、中小企業からの引合いも増えたがDaaS案件はまだ多くはないという。昨年目立ったのは、震災を契機とするサーバのBCP(事業継続計画)と同時に在宅勤務も注目され、VMware Viewの引き合いは多く、既に導入は始まっているが、2012年以降さらに多くの本格的な導入が見込まれると想定される。●製品(VMware View)について同社は、「VMware View 5」の機能に自信を持つ。運用性(1サーバで全て管理できる)が差別化要因で、トレーニングを受講することで、ユーザ自ら構築・運用が可能になるレベルの高い運用性があり、初期コスト、ランニングコストが大きく削減されるという。製品は、サーバ仮想化ソフトウェアVMware vSphereと統合管理できるvCenter Server、vShield FamilyによりVDI周辺の使い勝手、セキュリティが充実している。可用性はvSphereと同等の機能の利用が可能で、クラスタリング、ストレージの冗長構成も可能だ。ユーザ認証も、AD(アクティブディレクトリ)、スマートカード、指紋認証、OTP(ワンタイムパスワード)との連動が可能である。ネットワークは、VMwareセキュリティサーバでの認証とサードパーティVPNでの認証が選択できる。周辺の機能は十分であると言えそうだ。デスクトップ仮想化の資産管理は、VMware Viewで可能なので購入の必要はない。ただし、ログ管理を利用する場合、別途必要になる。日本のISVからはさまざまなログ管理ツールが提供されており、VMware View環境をサポートしているものも多い。VMware ViewのユーザやパートナーにはView対応のツールやソフトウェアを紹介している。VMware社は国内ベンダとの協業を通じて、代表的な資産管理ソフトが利用できる環境を提供している。性能は、VMware Viewの通信プロトコルであるPCoIPは、CITRIXのICAとすでに同等の性能であり、リトライを行うため従前のバージョンに比べて大きく安定性が向上している。価格は、VDIライセンス全体の導入コストの10%程度であり、実際はそれほど高額ではない。また、数年前と比較し、物理サーバの飛躍的性能向上による統合率の向上により、現在では、1台、物理サーバに約100台の仮想デスクトップの配置が可能(一般的な業務用デスクトップの場合)となり、初期導入コストにおいては、以前より敷居が低くなったと言える。導入後の運用管理コスト等を試算することができる企業においては、費用対効果のがあると言ってもよいようだ。●DaaSについてVMware ViewをDaaSのプラットフォームとして利用する場合、vShield Appによる仮想ファイアウォールでユーザ毎のネットワークアイソレーションが有効にはたらく。また、リソースプールをユーザ別に分けることも可能である。ただし、同一物理マシンでは管理画面(コンパネ)を分割提供できないので、ユーザ毎に物理マシンを別にするか、ユーザか らプロバイダへのリクエストベースでの設定変更となる。その場合、クラウドというよりは管理サービスと言えるだろう。 ●DaaSプロバイダの差別化要因最後の質問、DaaSプロバイダに求められる主な差別化要因は、「SLA」「良いレスポンスを得るためのHW(I/O特性、ストレージ、キャッシュ)」と「価格」の比較であり、、VDIのネックとなるサーバおよびネットのリソースであることは間違いない。逆に言えば、利用者が求めるSLAに見合わない場合も想定される。サービス品質での差がない場合、やはり価格勝負となる。その場合、マイクロソフトへのライセンス料の大小により決まると考えられるので、ライセンスのバルク購入による低価格化は大きなファクターとなると考えられる。(渡邉宏/編集部)