オンライン海賊行為禁止法案(SOPA)が及ぼす日本と世界への影響 | ScanNetSecurity
2024.03.29(金)

オンライン海賊行為禁止法案(SOPA)が及ぼす日本と世界への影響

オンライン海賊行為はゲーム産業だけに留まらず、長年深刻な問題であることは明白な事実です。2011年、エコノミストが独自に映画、音楽、ソフトウェア、ゲームやその他のクリエイティブコンテンツの著作権侵害による全体の損失を見積もると、約750億ドルにも上りました。

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オンライン海賊行為はゲーム産業だけに留まらず、長年深刻な問題であることは明白な事実です。2011年、エコノミストが独自に映画、音楽、ソフトウェア、ゲームやその他のクリエイティブコンテンツの著作権侵害による全体の損失を見積もると、約750億ドルにも上りました。長年、メーカーや政治家、研究者が海賊行為を様々なツールで阻止しようと試み(一時的には成功し)、そして現在、米国で注目を集めている手法があり、これは日本国内での著作権契約の見直しにつながるかもしれません。世界中で話題となっているオンライン海賊行為禁止法案 (Stop Online Piracy Act, SOPA) のことです。

SOPA は管理ではなくインターネットを封鎖するのか

2011年10月、SOPA は初めて米国下院に提案されました。それ以降、姉妹法である知的財産保護法案 (Protect IP Act, PIPA) とともに多くの論争を招くこととなります。この話題はいたるところでトップニュースになり、つい最近ではオバマ大統領が法案の不支持を表明し、さらに、大々的な抗議キャンペーンとして Wikipedia や Mozilla などの米国団体や企業のサイトの一時停止などが目立っています。

SOPAの論点は、あらゆるサイトを、たとえそれがたったひとつの著作権侵害であっても、インターネットプロバイダーや検索エンジンによってサイトへのアクセスをブロックし、停止することができます。理論上では、単に「米国知的財産の盗用を行う」サイトを訴える一方的な通知に記入すれば止めることができるため、主要サイトの多くをあっという間に消滅させることができるのです。基本的には誰でもサイトの停止を求めることができ、企業によっては優位に法律を利用し競争会社のサイトやサービスを停止することもできます。結果として、主にユーザーのコンテンツからなるサイトが重責を負うことになり、萎縮効果が見られるでしょう。 Ustream、Facebook、Youtube などのサービスにも適用されます。

さらにこれに伴う弊害として、SOPAは法案保護を支持する企業に別の問題を生み出しています。著作権違反で侵害を受けた場合、企業は損失額を見積もる必要があるのですが、世界中のどこからでもほぼ無料であらゆる情報におおむねアクセスできる現状を考えると、金額の見積もりは終わることのない作業となるでしょう。

すべての問題の背後にある主な原因は、法案がDNSの禁令によって侵害に対処していることであり、著作権侵害コンテンツをIPアドレスで禁止しないことです。きっと、議員や作成者が技術的知識に欠けていることが大きな原因なのでしょう。それでも、法案の目的はオンラインの悪徳サイトを根絶させることであり、何年も海賊行為に苦しむ音楽や映画業界の主要団体であるアメリカレコード協会 (Recording Industry Association of America, RIAA) やアメリカ映画協会 (Motion Picture Association of America, MPAA) は、この法案に支持を表明しています。

日本政府への圧力強化

米国におけるゲーム業界の団体であるエンターテイメントソフトウェア協会 (Entertainment Software Association, ESA) は、地元企業団体と協力して世界中の著作権法に影響を与えようとし、国際知的財産権同盟 (International Intellectual Property Alliance, IIAP) を発足させました。

提案例としては著作権に関する国際条約の「ACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)」があり、2013年に国際法として導入された場合、日本にも適用されることになります。ACTAではSOPAと類似した技術で実施され、ユーザーのデータアクセスとサイトへのブロックを行う手法となります。SOPAまでとは言いませんが、世界規模でSOPAに類似したより厳しい法律が設立されるきっかけとなる恐れが大いにあります。

この仮説は決して極端なものではありません。すでにIIAPは以下のような、他国の法律に影響を与えています。

・ニュージーランドでは米国からの非常に大きな圧力を受け、「著作権審判所 (copyright tribunal)」を設立し著作権被害の補償に充てている。
・フランスでは誰かが著作権法に違反してP2Pネットワークでゲームを不正ダウンロードした場合、合計で3回となった時点で完全にインターネットのアクセスを切断される「スリーストライク法」がある。
・2010年、英国では「デジタル経済法」という法律が成立され、著作権が侵害された場合、省庁はサイトをプロバイダーによってブロックできる。
・2012年以降、類似法がスペインのユーザーにも適用される。著作権違反があった場合、特別機関がサイトの接続を禁止できる。

特に最後の事例では、2010年にスペインの首相が SOPAとPIPAに類似した厳しい法律を阻止しようとしているため、米国政府は実際に強く警告しています。スペインは世界的に見てもオンライン海賊行為の非常に高い国に入り、中国、インド、ロシア、インドネシアに加えて米国のブラックリストに入っていると思われ、これは深刻な経済問題を引き起こしているのです。

環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) に参加する可能性が出てきた今、日本でも著作権法の強化に直面しています。現状の法律では、警察は著作権保持者が提訴しない限り著作権違反に対して行動を起こすことはできません。TPPに含まれる新法では、警察や検察の判断で違反と決定できるため、同人誌や同人ゲーム産業を荒廃させる可能性があり、その結果、産業全体が縮小するかもしれません。

たとえ日本が著作権違反者リストのトップ10に入っていないとしても、上記の例にあるように広範囲に渡って産業や娯楽文化に影響を与えるため、日本にいる我々もオンライン海賊行為に関する論議を無視できないわけです。

日本のインターネットまでも米国領域に

法案とその反対意見に関するすべての懸念は、大きな一点を見過ごしています。それはSOPAとPIPAによって、米国捜査官は外国のプロバイダーのサイトにも影響を及ぼすことができるということです。彼らは海外のコンテンツに対してもアクセスできないように、ブロックできるのです。

例えば、日本で合法的に入手できるゲームコンテンツであっても、米国に拠点を置く企業のサービスを利用していれば、一切使用できなくなる可能性があります。米国のサービスで日本用のドメインを購入した場合であっても、です。米国に拠点を置く企業へのあらゆる接続がこのような規制の対象となります。しかも、その決定に対して上訴するためには、米国の裁判所に赴く必要があります。

ゲーム産業においては、国内外で自由に情報交換していたものが完全に停止されることとなるでしょう。小さな日本の開発者は海外のファン層を増やすことに、今現在でも困難を感じていますが、それ以上のものになるでしょう。場合によっては検閲まで行われるようになるかもしれません。日本のサイトがブロックされてしまうと、米国の同人ファンは好きなタイトルに関する情報を手に入れられないだけでなく、ゲームをプレイする機会さえ失う可能性があります。

現状の米国法でさえ、日本人は管轄問題とは無関係ではありません。実際にすでに英国学生を米国への送還で脅かした事件が1件あり、著作権保護された素材のromやtorrentのダウンロードリンクを張る .com や .net のサイトを運営しているだけで、出頭を要請し、米国で数年の刑を言い渡されることになります。

ゲーム産業からの視点と影響

ゲーム産業においては、SOPA に対するすべての企業の姿勢が定まっているわけではありません。米国にあるゲーム開発業者(カプコン、バンダイナムコ、スクウェア・エニックスやソニーも所属)の業界団体であるESAは公然と論争の法案への支援を求めているが、任天堂やソニーは(Electronic Arts と Microsoft といった米国企業に加え)反対することを公式に表明しました。 そして未だにどちらともいえない態度や声明を発表しないでいる企業もあります。

しかしながら、プレイヤーのほとんどは、明確に法案を拒否する立場を取っています。ある企業では、「SOPAの支持を止めなければ、企業の応援を止める」とプレイヤーが言うだろうと考えてさえいるようです。

今、世界中のゲームファンにとって最も重要な要素は、プレイヤー同士のコミュニティです。ゲームの経験をシェアしたり、チャットしたりすることで、プレイヤーは喜びを感じています。彼らはゲームのプレイ映像のコンテンツを作成・配信し、ゲーム音楽を歌い踊り、好きな登場人物のセリフを言い、さらにはコスプレ作品、特に日本で活発な同人誌マンガなど、写真や動画を繰り返しアップロードしています。ユーザーが作成した様々なコンテンツは無限に存在しているのです。

今、このような利用はすべて、ほとんどの場合、法の下では「公正使用」と見なされているようですが、SOPAはこの権利を奪い、これらすべてを著作権侵害とみなすでしょう。法案はゲームコミュニティを事実上停止させるだけでなく、ファン個人を投獄することもできるのです。ユーザーは表現の自由を奪われ、グループやコミュニティを作る自由を失うことになります。 それゆえ、北米のゲーム消費者団体 (Entertainment Consumer Association) や、Minecraft のクリエイターである Notch などをはじめとする、ユーザーと協力してゲームを創り上げてきた特定のインディーディベロッパーも、ほとんどが SOPA に対して反発しています。

ゲーマーの利益のためだけでなく、ゲーム会社が法案の支持、不支持を慎重に検討する必要があります。ゲーム市場のマーケティング活動においてインターネットは重要な役割を果たしており、コミュニティやソーシャルネットワークでの口コミは多くの企業にとって鍵となっています。特にソーシャルゲームやWorld of Warcraft のような MMO にとって口コミは必要不可欠なものであり、そのため欧米のソーシャルゲームの発行元である Zynga は当初より SOPA 担当議員に対して公開書簡を書いています。

さらに、Machinima やRed vs. Blue(Halo ゲームをもとにした動画シリーズ)などのゲームツールを通じて考案された動画も、当然SOPAの下では存続できなくなります。二次派生的なコンテンツの創出がなくなれば、開発者たちは自分たちのタイトルへの反響を確かめる有効な資源をも失い、新しいアイデアの種は摘まれていってしまいます。つまり、ユーザーの自由にマイナスの影響を与えるものは、ついにはゲームメーカーを危険にさらすことになりかねません。この法案がコンテンツディベロッパーやパブリッシャーによって熟考されたものであるとは、到底考えられません。

SOPA や PIPA が米国上院で通過する可能性は現在限りなく低いでしょうが、今後、オンライン海賊行為と戦うより 過激な法律を通じて、人権までも制限される時が来るかもしれません。あるいは、海賊行為のあるコンテンツを技術的に止めるか、あるいはファンと協力していけるようなシステムを開発するか、何らかの方法で海賊行為をなくす効果的な方法が見つけ出されるかもしれません。

きっと日本の開発者とプレイヤーはよりよい解決策を模索していく手助けをすることができるでしょう。日本で海賊行為が比較的低いことには理由があり、きっとここには欧米が学べる何かがあるはずですから。

オンライン海賊行為禁止法案(SOPA)が及ぼす日本と世界への影響・・・イバイ・アメストイ「ゲームウォーズ 海外VS日本」第20回

《編集部@INSIDE》

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