大震災と事業継続管理 第1回「相次ぐサプライチェーンの寸断」 | ScanNetSecurity
2024.03.19(火)

大震災と事業継続管理 第1回「相次ぐサプライチェーンの寸断」

事故や災害に備える事業継続管理(BCM)が十数年前から議論され、国際標準化に向けた作業も進められています。日本でも都市圏の直下型地震の発生が懸念される中、ガイドラインが制定され、企業や行政機関において事業継続計画(BCP)を立案するところも増えてきたところ

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事故や災害に備える事業継続管理(BCM)が十数年前から議論され、国際標準化に向けた作業も進められています。日本でも都市圏の直下型地震の発生が懸念される中、ガイドラインが制定され、企業や行政機関において事業継続計画(BCP)を立案するところも増えてきたところです。

そんな中、未曾有の大地震である東日本大地震が発生しました。今回の地震は、関東から東北にかけた極めて広い地域で被災してしまったことが、想定外の状況だったと言えます。 本コラムでは、数回に渡って災害発生時における事業の継続性に焦点を当てて報告する予定です。

●自然災害と事業継続
1995年1月の阪神・淡路大震災以前の地震対策は、従業員の安全対策、資産の保全と避難訓練という視点でのみ取り組まれており、事業の継続を視野に入れて考えられることは少なかったようです。従来の地震防災計画は、自社の安全だけを考えていました。阪神・淡路大震災は、この枠組みの根本的な見直しを迫り、地震対策は経営の根幹をなす重要な危機管理対策であり、事業を継続するためのマネジメントが不可欠であることを思い知らされる結果となりました。

また、2004年10月の新潟県中越地震では、都市直下型地震であった阪神・淡路大震災と比べ、企業の本社や重要な拠点の直接的な被災は少なかったものの、被災地に製造拠点を置く取引先や子会社などが被災し、サプライチェーン上で問題が起こり事業活動に影響が生じた企業もありました。代替拠点の確保など、SCM(サプライチェーン・マネージメント)の観点からもBCM を構築する必要が改めて認識されたところです。

また、新潟県中越地震では、大きな余震が続いたことが特徴に挙げられます。これにより復旧に向けた施設や設備の総点検を何回も繰り返さなければならず、復旧作業に大幅な支障をきたしました。計画通りに復旧ができない場合には、被災地外で事業を早期に再開する対策が必要となりますが、こうした企業の早期再開・早期復旧・全面復旧など事業継続に関する総合戦略を柱としたBCM が重要となることを認識させるものでした。

事業継続計画策定ガイドライン(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/downloadfiles/6_bcpguide.pdf

●サプライチェーンと震災
日経新聞によると、四川大地震では、操業停止に追い込まれた現地企業(国有企業または年商500万元以上の一般企業)のうち、27%に相当する1,482社は、1ヶ月余り経過した時点でも生産を再開できずにいたということです。このうち24%は、稼働再開まで3ヶ月以上かかる見通しだと報じていました。また2007年7月に発生した新潟県中越沖地震では、自動車部品の分野で高いシェアを持つリケンが被災し、業務が停止しました。このリケンの業務停止は、自動車の生産にかつてないほどの大きな支障を与え、国内自動車メーカーの生産遅れは10万台以上になり、遅れを取り戻すまでに数ヶ月を要したと言われています。

これらの大きな災害の経験を通じて、事業継続の実現にはサプライチェーン全体で考える必要があるということを改めて示しました。最近では、サプライチェーンなどで企業同士の連携が増えており、特に海外との取引がある場合、海外企業が事業継続管理(BCM)の整備レベルを取引条件にするところも出てきているようです。すなわち、企業の事業継続対策には、自社だけではなく、自社の業務委託先や取引先など幅広い組織を対象とすることが重要になってきているといえます。

●相次ぐサプライチェーンの寸断
東日本大震災で大半の完成車工場は被災を免れましたが、部品メーカーが被災し、部品の一部が調達できない状態に陥りました。車は2万~3万点の部品からなっており、ひとつでも欠けると生産ラインを動かせません。日本の自動車メーカーでは、同じ部品を複数の部品メーカーから調達し、リスク分散を図ってきていました。今回の大震災では4~5次にわたる調達先のうち、自動車メーカーが把握していたのは「せいぜい2次部品メーカーまで」(大手メーカー)だったのです。自動車メーカーから1次の部品メーカーに対しては複数社に分けて発注がなされていても、その先の2~5次になると、再び1社に集中していたということです。

【事例1】
Bank of America Merrill Lynch は世界のハイテク・ハードウェア供給の流れが、東日本大震災の影響による電力不足や流通等の混乱から正常化するには、6ヶ月かかるだろうと予想しています。米国特に、半導体のパッケージングに使われるBT基板の供給に支障が出るだろうと見ています。日本からの供給が全体の90%を占めており、最大手2社が受注を中断しているためです。

米国投資アナリストが予測―ハイテク業界が混乱から回復するには6カ月かかる(Computerworld)
http://www.computerworld.jp/topics/move/191024.html

【事例2】
東日本大震災で紙やインキの供給不足が今も続き深刻化しています。製紙大手の工場では生産再開が遅れており、インキの原料となる石油化学製品の生産も滞ったままだからです。計画停電の影響も重なり、供給不足の影響は印刷業界や新聞・出版業界など幅広い業種に広がっているようです

セキュリティ対策コラム
http://security.intellilink.co.jp/article/

(林 誠一郎)
《ScanNetSecurity》

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