こうした企業の秘密情報漏えいに関連した犯罪は、世相を反映して今後も増加するものと予想されます。今回のコラムでは、新しく改定され拡張された「不正競争防止法」を中心に解説しています。
1.不正競争防止法改正の内容
上記の問題点を踏まえて、「企業の競争力の源泉である無形の技術・ノウハウ等の保護強化」「IT化・ネットワーク化の進展への対応」「オープン・イノベーションの促進」の、3つの視点から、不正競争防止法の改正が行われました。
この改正では、営業秘密侵害罪の目的要件が変更され、また、営業秘密の領得(自己または第三者のものにする目的で、他人の財産を取得すること)自体への刑事罰が導入されました。
(1)規定範囲の拡大
営業秘密侵害罪における「不正の競争の目的」を改め、不正の利益を得たり、保有者に損害を加えたりする目的をもってなされる行為を処罰の対象に含める。
現行不正競争防止法第2条1項7号の「不正競争」の定義においては、既に「図利加害目的(背任罪の行為者が、自己または第三者の利益を図るか、または他人に損害を与えようとすること)」が目的要件として規定されている。
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(2)営業秘密の領得自体への刑事罰の導入
営業秘密の管理に係る任務に背いて営業秘密を領得する行為(コピー禁止の資料を無断でコピーしたり、持出禁止の資料を無断で外部に持ち出す行為等をいう)を新たに刑事罰の対象とし、処罰の間隙をなくす。
2.営業秘密の持ち出しに関する罰則
今回の不正競争防止法の改正では、営業秘密の持ち出しについて広く罰則規定を設けており、主に3点が大きく改正されています。
(1)国外犯についても処罰の対象:営業秘密を国外に持ち出し使用・開示した者
(2)退職者についても処罰の対象:在職中に第三者から請託を受け、その後退職した社員が営業秘密を第三者に不正に使用・開示した行為
(3)法人についても処罰の対象:営業秘密の侵害行為の実行犯だけでなく、所属する会社にも罰金刑。
3.改正後に処罰の対象となる例
以下のような営業秘密侵害のケースも処罰対象とできるよう、より実効的な保護を図っています。
・ケース1:目的要件の拡大
A社の商品開発部に勤務しているBは、上司である商品開発部長に叱責され、A社の会社方針に反感を抱き、同部長がA社から管理権者とされ、Bを含む同部に配属している従業者のみに開示されていたA社の営業秘密(開発中の商品に関する情報)を、匿名で第三者が開設するホームページへ書き込みを多数回行うことで、A社がその情報管理体制等についての信用を損なうことになればいいと考え、これを実行した。
・ケース2:処罰対象行為の拡大
C社の従業者Dは、C社の保有する営業秘密を示されたところ、C社の内部規程によって当該営業秘密の複製を無断で作成することが禁止されていたにもかかわらず、C社の同業者であるE社に当該営業秘密を売り込む目的で、当該営業秘密の記録された磁気情報を管理しているサーバーにアクセスして当該営業秘密を自己のCD-ROMに無断でコピーした。その後、C社の情報管理部門担当者が上記アクセス及びコピーの履歴に気づいたため、Dを追及したが、開示などしていないと説明した。
改正不正競争防止法の概要(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/unfair-competition.html#21
不正競争防止法の一部改正する法律について(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/20090227001/20090227001.html
セキュリティ対策コラム
http://www.nttdata-sec.co.jp/article/
(林誠一郎)