セキュリティの世界に“人間”が飛び込む今が最高の時 ~ CTF 生まれ CTF 育ち モヒカン准教授が教えるエージェント時代の脆弱性発見 | ScanNetSecurity
2026.08.19(水)

セキュリティの世界に“人間”が飛び込む今が最高の時 ~ CTF 生まれ CTF 育ち モヒカン准教授が教えるエージェント時代の脆弱性発見

 エージェントが人間の処理能力をはるかに超えてバグを吐き出す時代に、研究者は、そして人間は何をすべきなのか。この問いに対するヤンの答えは、意外にもまったく悲観的なものではなかった。むしろヤンは「人間にとって、いまこそサイバーセキュリティに飛び込む最高のタイミングだ( This is the best time to get into cybersecurity as a human.)」とまで言い切った。

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BlackHat USA 2026 基調講演 アリゾナ州立大学 准教授ヤン・ショシタイシュヴィリ( Yan Shoshitaishvili )氏
  • BlackHat USA 2026 基調講演 アリゾナ州立大学 准教授ヤン・ショシタイシュヴィリ( Yan Shoshitaishvili )氏
  • BlackHat USA 2026 基調講演 アリゾナ州立大学 准教授ヤン・ショシタイシュヴィリ( Yan Shoshitaishvili )氏

(編集部註:本稿は全文 6,673 文字です)

 今夏開催された BlackHat USA 2026 の基調講演はアリゾナ州立大学 准教授ヤン・ショシタイシュヴィリ( Yan Shoshitaishvili )による「Vulnerability Research in the Agentic Age(エージェント時代の脆弱性研究)」という、崩壊しつつあるといわれる「脆弱性ハンドリング」「責任ある情報開示」への講演者の解釈を示すものだった。

 「Mythos ショック」以降、脆弱性情報の人力ハンドリングの限界やフロンティア AI の利用規制、AI-Slop 問題( AI による大量な要検証情報の氾濫)が各所で話題となっている。しかし、混沌とする状況を追認または煽る内容も目立ち、解決策は見えてこない。もちろん過渡期に方向性が定まらないのは当然であり、万能の解決策が都合よく転がっているわけではない。

 基調講演でヤンが語った「 AI にバグを探させるのではなく、脆弱性の性質( Property )に着目し、それを与える」アプローチは、氾濫するバグ・脆弱性情報を別の角度から見直すきっかけとなるものだ。少なくとも、従来型の機械学習によるパターン検知や LLM による脆弱性発見手法以外のやり方、選択肢を増やしてくれる。

● DEF CON CTF 参加の後、運営に

 講演内容に入る前に、登壇者であるヤン准教授について補足しておく。

 基調講演の冒頭では DEF CON と BlackHat の創設者、ジェフ・モスの前説的なスピーチがある。ジェフ・モスはそこでヤンを「 DEF CON CTF の運営に 2018 年から 2021 年まで関わった人物」と紹介した。

 アリゾナ州立大学 准教授の肩書ながらモヒカン(開期中だけかもしれないが)。あげくに身にまとった T シャツにデカデカと「 pwn 」の文字。思わず「君、どこで買ったの? その T シャツ?」という言葉が出かける。Black Hat というよりはむしろ DEF CON カルチャーを体現する人物である。

BlackHat USA 2026 基調講演 アリゾナ州立大学 准教授ヤン・ショシタイシュヴィリ( Yan Shoshitaishvili )氏

 そもそも CTF を現在の競技の形で定着させたのは DEF CON であるとも言われている。広義のハッキングやシステム解析の競い合いは DEF CON 以前からのハッカーカルチャーの一部である。しかし DEF CON 会場で競技としての CTF が始まった時、参加者が狙ったのは標的システムではなくルーターやスコア表示システムだったという。何も手間ヒマかけて標的を落とさずとも、スコアを直接いじって 1 位になれればこれ以上の最短距離はない。くそ真面目に問題に取り組むことなどクールではない。思わず笑顔になるエピソードだが、それでは「競技」は成立しない。最低限順守すべきルールの必要性を認識し「ルーターや主催者インフラへの攻撃は禁止」など CTF 競技としての体裁が整備されていった。

 ヤンの両親はともにアカデミアの人間で、母親はコンピュータサイエンスの博士号を持っていた。本人もロシアで生まれている。ベルリンの壁崩壊後、ロシアの学者たちは特定の政治家候補への支持表明を迫られるようになり、KGB が一家に KGB 系選挙候補者への支持を強要してきたことから、一家はアメリカへ亡命した。ヤンが 8 歳のときである。

 ヤンは大学在学時に CTF に接してハッキングに夢中になり、やがてシンボリック実行で知られる多機能な解析フレームワーク「 angr 」を開発した。ヤンの CTF チーム「 Shellphish 」はこの angr を武器に、約 2 年にわたって世界中の大会で圧倒的な実績を挙げた。angr はその後、1,000 を超える研究・製品ツールに利用されている。

● 脆弱性発見の 3 つのアプローチ

 ヤンは、自身の発表内容について次のように前置きする。

 「脆弱性を発見したいなら大学院生や研究者を使うのではなく、問題を ChatGPT(などの AI エージェント)に張り付けてバグを見つければいいという意見がある。実際それで成果もでているが、溢れる脆弱性情報をこなしきれていない現実もある。この混乱は、AI が吐き出す誤り(ハルシネーション)を選別できるだけの知識を持たない人々が、その出力をそのまま投げていることに起因する。本日の講演は、その話ではない」

 ありがちな、AI によって攻撃者より先にゼロデイを発見する話、CVE の混沌を煽るような講演ではないことを明言し、それを解決できると仮定して、その方法を探る研究過程の報告であるとした。

 状況を整理するため、まず脆弱性をAIによって自律的に発見する方法をヤンは次のように分けた。

(1)より良く分析する
(2)より多くを分析する
(3)違ったやり方で分析する

 (1)は古典的な静的解析をベースとした手法で、人力で行っていたものを、同じアプローチのまま解析ツールやAIを活用して誤検知を減らす。

 (2)は、それを多数のコードを対象に展開する。効率化や自動化がポイントとなる。

 (3)は(1)(2)とは違ったアプローチであり、ヤンは「クッキーの生地から型抜きをする」たとえでそれを説明した。脆弱性を発見する手法には、静的解析のほか、ランダムな入力を大量に送り込んで異常を誘発するファジング、そして LLM など複数の型がある。(3)の「違ったやり方で分析する」とは、静的解析やファジング等々の従来の型ではない「新しい型」を創出するというものだ。

《中尾 真二( Shinji Nakao )》
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