富士山噴火リスクと広域降灰の現実「出社しなくていい」と即断できる体制整備が先決 ~ 日本大学 危機管理学部 秦 康範 教授 | ScanNetSecurity
2026.06.29(月)

富士山噴火リスクと広域降灰の現実「出社しなくていい」と即断できる体制整備が先決 ~ 日本大学 危機管理学部 秦 康範 教授

 2026 年 3 月 10 日、東京 大手町で「防災 meet up!人と出会い、繋がり、学ぶ。つながる防災イベント」が開催された。東日本大震災から 15 年の節目に合わせ、南海トラフ地震・首都直下地震・富士山噴火という複合リスクへの備えを問い直すことを趣旨としたイベントだ。

インシデント・事故
日本大学危機管理学部、秦 康範 教授
  • 日本大学危機管理学部、秦 康範 教授
  • 富士山噴火の現実
  • 宝永噴火の降灰範囲と堆積量
  • 微量でも地上鉄道路線の運行停止の可能性
  • 首都圏における広域降灰対策ガイドライン(概要)

 2026 年 3 月 10 日、東京 大手町で「防災 meet up!人と出会い、繋がり、学ぶ。つながる防災イベント」が開催された。東日本大震災から 15 年の節目に合わせ、南海トラフ地震・首都直下地震・富士山噴火という複合リスクへの備えを問い直すことを趣旨としたイベントだ。

 なかでも「情報とつながる BCP 計画アップデート・シミュレーション」と題したセッションでは、3 名の専門家が南海トラフ・豪雨災害・富士山噴火の各テーマで登壇した。本稿では、セッション 1 として実施された日本大学危機管理学部・秦 康範 教授による講演「富士山大規模噴火と広域降灰リスク ~ 民間企業に求められる究極の備えと BCP への示唆」の内容を報告する。

● 阪神淡路大震災を契機に半導体専攻から防災研究へと転向

 秦 康範 氏は、学部在籍時に半導体研究を専攻していたが、大学 4 年時の 1995 年に阪神淡路大震災を直接経験したことを契機に、防災・災害研究へと転向した。東京大学大学院で土木工学の修士・博士課程を修了し、理工学的な災害メカニズムの分析と社会科学的な対応策の双方を扱う研究者として活動している。

 現在は日本大学 危機管理学部 危機管理学科 教授を務めるほか、山梨大学・静岡大学・東京大学の客員教授も兼任。火山防災の分野では、箱根山および長野・岐阜県境に位置する焼岳の防災協議会専門委員を歴任。2020 年には内閣府「大規模噴火時広域降灰対策検討ワーキンググループ」委員として、首都圏への降灰被害想定の策定にも携わった。

● なぜ御嶽山噴火は戦後最悪の火山災害になったのか

 2014 年 9 月 27 日 土曜 午前 11 時 52 分、長野・岐阜県境に位置する御嶽山が突如噴火した。死者 58 名、行方不明者 5 名。この数字は火山災害としては過去 100 年で最大規模であり、「戦後最悪の火山災害」と称される。ただし秦氏は、噴火の規模そのものは決して大きくなかったと強調する。

 犠牲者が集中した背景には、複数の条件の重複がある。噴火当日は「晴天」「土曜日」「紅葉シーズン」「お昼時」という組み合わせであり、年間を通じて最も登山者が山頂付近に集まるタイミングと重なった。噴火警戒レベルは「 1(平常)」が維持されており、ほとんどの登山者はリスクの存在をほぼ認識していなかった。

 噴火は前兆なしにいきなりクライマックスを迎える形式で、音もほぼ発生しなかったと報告されている。噴火直後に撮影されたとみられる写真がデジタルカメラに残っていたことから、多くの登山者は噴火と認識すらできなかった可能性が高い。噴石が降下し始めるまでの時間は 1 ~ 2 分程度であったが、その時点ではすでに周囲が暗闇に包まれており、身を守る行動を取ることは困難だった。

 一方で、この1 ~ 2分の間に付近の山小屋へ逃げ込んだ者は全員が生還している。この事実は、自然災害における「わずかな時差と適切な行動」の重要性を端的に示しているという。

 秦氏は、災害を「ハザード(自然事象)」×「暴露」×「脆弱性の重なり」として生じるリスクと定義する。御嶽山の事例では、噴火そのものの規模は小さく、噴石の到達範囲も火口から 250 ~ 500 m 程度に限定されていた。にもかかわらず被害が拡大したのは、その範囲に大勢の登山者が存在し(高い暴露)、かつ退避場所がほぼ存在しなかった(高い脆弱性)ためである。ハザードの規模だけで被害の大小を判断することの危険性をこの事例は示している。

● 富士山噴火について押さえておくべき基本事実

 富士山の直近の噴火は 1707 年の宝永噴火であり、すでに 300 年以上が経過している。富士山は過去 5,600 年間で約 180 回の噴火が確認されているが、噴火の間隔に法則性はなく、数十年単位で断続した時代もあれば、現在のように 300 年以上の空白期間もある。噴火規模の内訳は、小規模が 49 %( 86 回)、中規模が 47 %(約 84 回)、大規模が 4 %( 7 回)である。宝永噴火・貞観噴火はこの 4 %に含まれる。

 秦氏が強調したのは、富士山の噴火が必ずしも「爆発的噴火」ではないという点だ。メディアで繰り返し放映される山腹が爆発する CG は宝永噴火を想定したものだが、これは過去 5,600 年の噴火史のなかで極めて稀なケースに属する。歴史的には、玄武岩質の溶岩流を伴うタイプの噴火が多かったとされる。864 年から始まった貞観噴火では大量の溶岩流が流出し、現在の青木ヶ原樹海の形成につながった。

 また、過去 5,600 年の調査では、同一の火口から繰り返し噴火した記録はなく、次回噴火がどこで発生するかの予測は困難である。火口は複数箇所に同時に生じる可能性もあるとされており、山体の反対側でも同様の火口が形成されるケースが他の火山(桜島など)では確認されている。

富士山噴火の現実

《高橋 潤哉( Junya Takahashi )》

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