国際政治の場でインターネット(サイバー空間)抜きにした議論が成立しなくなっている。市民の生活レベルでもネットはすでに社会秩序の一部である。この状況から「スプリンターネット(編集部註:さまざまな要因によってインターネットが分断すること)」の議論が必然的に生まれた。
昨年開催された Internet Week 2022(本年の Internet Week 2023 は11月15日(水)から11月22日(水) 開催 ※土日祝除)において JPNIC 政策主幹である前村 昌紀 氏が「スプリンターネットを読み解く」というセッションを行った。
近年、世界が対峙するインターネットガバナンスへの国際機関やコミュニティ、各国政府や企業の取り組みを俯瞰するもので、参加者・視聴者(オンライン配信もされた)に「我々はインターネットをどうしたいか?」を問いかける内容だった。本稿では昨年以上に重みを増すこのセッションのレポートを蔵出しでお届けする。
●ウクライナ政府の要請にICANN・RIPE NCCはどう答えたか
2022 年 2 月末、ウクライナ政府から ICANN および RIPE NCC にある書簡が送られた。ICANN には「ロシアの cc.TLD の無効化。これらの SSL 証明書の無効化支援。ロシアのルートサーバーの停止」を要請した。RIPE NCC にも同じ内容と、それに加え RIPE NCC のロシア会員の IP アドレス使用権取り消し要請がなされた。
これに対して ICANN は、「我々はいかなる政府とも独立している。またインターネットは脱中央集権であり、ICANN はその機能を停める立場にはなく、そのような制御の権能者は存在しない」という返事を送った。実質ゼロ回答である。