独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は6月26日、「全体最適へ向かうデジタルツイン~ 拡大するデータ収集・再現対象 ~」を発表した。
同レポートでは、企業が多様かつリアルタイムなデータから洞察を得る手段として注目されるデジタルツインについて、その概要と、近年のデジタルツインにおけるデータ収集・再現対象の拡大について、ビジネスにおける活用例を踏まえて解説している。拡大した収集データを用いて全体最適の実現を目指す潮流について述べ、デジタルツインの活用を検討する日本企業への示唆をまとめている。
デジタルツインは、物理空間に存在するモノやヒト、プロセスをサイバー空間に双子のように再現したもの、またそれを活用したシステムを指す。デジタルツインを特徴づけるのは、多様でリアルタイムなデータをサイバー空間へ反映する点で、時間とともに変化する対象や周囲の環境の状態をサイバー空間内のデジタルツインにリアルタイムに反映するために、IoT によるデータ収集が重要となる。
同レポートでは業務プロセスのデジタルツインとして、ドイツの地方航空会社 Lufthansa CityLine による2019 年からの継続的な取組を取り上げ、その一環として、Celonis(ドイツ)が提供するプロセスマイニングツールを活用し、業務プロセスの効率化と顧客満足度の向上に成功したと紹介している。
Lufthansa CityLineでは、荷物の積み下ろしや乗客の乗降、燃料補給、ケータリングの準備など、並行して行われる空港地上業務プロセスのタイムスタンプを ERP や関係業者の記録から取得し、そのデータをダッシュボードに可視化しプロセスが遅延する原因を特定、一部の便で搭乗客の移動手段をバスから徒歩に変更するなど、非効率なプロセスを特定・改善する取組を継続的に行っている。2018年には出発遅延が年間累計 10,000 時間に及んでいたが、これらの取組で翌2019年には約半分に減らすことに成功している。プロセスの効率化で搭乗ゲートの閉鎖から離陸までの時間を縮めることができ、顧客満足度の向上にも繋がっている。
またサプライチェーンのデジタルツインとして、米国の大手家具メーカーLa-Z-BoyがCOVID-19 の流行による家具需要の急増への対応と、受注生産におけるリードタイム短縮のために オランダAIMMSのソリューションを活用し、自社のサプライチェーンのデジタルツインを作成したことを取り上げている。La-Z-Boyでは、AIMMS のソリューションで過去の生産・流通データからサプライチェーンのモデルを作成し、既存ネットワークを最適化し、さらに最新のデータに基づき、サプライチェーンの変更案や不確定要素の影響のシミュレーションが可能になっている。
デジタルツインの構築には社内の機密情報を反映することが多く、組織にまたがるデジタルツインを構築する場合には他企業の情報が含まれることもあり、機密情報の流出や、データ改ざんを防ぐためにもセキュリティを強化する必要性について述べている。ヒトのデジタルツイン構築では、個人データを収集することになるため、いっそうのセキュリティ強化と、個人情報保護のための法令遵守も求められると解説している。