「サイバーフィジカル」「デジタルツイン」といった言葉を聞いたことがあるだろう。ユビキタスコンピューティングと IoT が進んだ現在、現実空間のあらゆるポイントを観測し、それを数値化しているサイバー空間が相互に関連しあっている状況を示す言葉だ。
◆リアルとサイバーが混然一体となったデジタルツイン
リアルとサイバーは違う、社会は人間中心であるべきだ、といった普遍的ヒューマニズム(人間主義)がある一方、人々の活動は確実にサイバー空間に捕捉され、サイバー空間の変化もまた人々の社会に影響を与える。これは紛れもない事実で、この現象を巧みに利用しているのが、国家機関やサイバー軍である。
EMP(電磁波攻撃)やサイバー先制攻撃(敵基地サーバーへのサイバー攻撃)のような、セキュリティ視点から見たら与太話にも思えるものが安全保障の最重要課題のように語る政治家やメディアもある。しかし、中露・ファイブアイズによる情報戦の主戦場は、サイバー空間での諜報活動およびプロパガンダ・世論操作に移っている。
民間企業や一般市民には、小説か映画の話のようで現実感はないかもしれないが(だからこそ、国民も政治家もEMPのような派手なワードに釣られてしまうわけだが)、もっと身近な例で、サイバーフィジカルを感じることができる。
本稿は、IIJ 松崎吉伸氏が昨秋開催された CODE BLUE 2021 で行った講演「インターネット通信量が映す社会の動き」の要旨を紹介する。内容は純粋な統計分析に基づいたもので、国家支援型のサイバー攻撃などセンセーショナルな煽りはない一方で、だからこそデータドリブンの鋭い分析は、通信事業者、インフラエンジニアや SOC オペレーターなど、広範な実務家や管理層に役に立つだろう。マクロなトラフィック分析だけで、これだけのことがわかるというのは驚きだった。